1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:04:16.63 ID:MWLtXdDy0
喪黒「……私の名は、喪黒福造。人呼んで笑ゥせぇるすまん。
ただのセールスマンじゃございません。
私の取り扱う品物は『ココロ』。
人 間 の コ コ ロでございます…。」
喪黒「……この世は老いも若きも、男も女も、ココロの寂しい人ばかり、
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭も戴きません。
お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます…。
さて、今日のお客様は………。
ホーーーーーーホッホッホッホ!!!!!!!!」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:06:13.40 ID:SeU5JIA2O
>>1先生の次回作にご期待ください!
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:07:58.25 ID:jXdi2OD7P
中盤どうなることかと思ったけど持ち直したな
乙!
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:18:06.20 ID:UfFFhcTu0
_,,、--――-- 、,
/´::::::::::::::::::::::::::::::::::::`',
,r''j´ ̄ `ヽ、 /::::_;;、--――-- 、;;;:::::::l
/ / ヽ /゙´,,. --―――-- 、,,`゙ヽ!
l / |l;:´---;=t;;ァ┬┬t;;ォ、、,_`ヽ|
l, ,'::ハ,゙´ ノ,、 l, ヽ,゙l::〉‐、 ド゙ーン!!!!!
人 ノ ' ヽ、... 'r'゙ ヽヽ、.... -' Y 〈
/ `''┬―‐'´ヽ-、 l''ー;=、;_―゙ニ゙-----__,ニ'' | ヽ
/ `''ー、,、 `ト-!、__| ̄Τ ̄「 ̄|__,/ j ノ
./ , / ,、 ハ;ト 、,.二,^,二,二´,./ /-ヘ
| `''ー---|. 〈 ヽイ \、L.,,__|__,,.」.../ ,イ:::::::::゙i,
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:22:47.94 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――――――――
マスオ「はぁ…。今日も疲れたなぁ…。」
その日も、僕は普段通り定時に仕事を終え、家路についていた。
全く、会社勤めなんてものにはいつまで経っても慣れる気がしない。
係長などと言えば多少聞こえはいいが、仕事ばかり多くて給料はヒラにほんの少し毛の生えた程度。
内容だって大してやりがいがあるものじゃあない。
課内のコミュニケーションをとるのもなかなか楽ではない。
嫌みを垂れる上司と愚痴をこぼす部下との間で板挟みになり、たまに女性社員から受ける『悩み相談』なんてものは恋人がどうの結婚がどうのと、作り慣れた笑顔で適当に相槌を打っていれば満足してくれる程度のレベルのものでしかない。
結局のところみんな不満のはけ口が欲しいだけなのだ。
さんざん疲れて、早く帰って眠りたい、と思っている時なんかでも
同僚に誘われればそれを無下に断るわけにもいかない。徹夜での麻雀や一杯飲み屋の梯子。翌日には必ず狭っ苦しい電車内で
『いつまでも若いわけじゃない、ってのはこういうことを言うんだろうな』と呟くことになる。
(……平凡だなぁ。
……僕の人生って、可もなく不可もなく
ずぅーっとこんな感じで続いていくんだろうか……。)
そんなことを考えながら歩いていると、ポンポン、と不意に肩を叩かれた。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:23:44.20 ID:MWLtXdDy0
ノリスケ「やーっぱり。マスオさんじゃないですかー!?」
マスオ「や、やぁー。ノリスケ君。奇遇だねぇ。」
ノリスケ「どうしたんですかぁ?さっきから何回か呼びかけたのに、全然返事してくれないんですもん。一瞬、他人の空似かと思っちゃいましたよー。」
マスオ「えっ?あ、ああ、そうかい?すまない…。
ちょっと考えごとに耽っていたものでね。」
ノリスケ「そうなんですかぁ。マスオさん、今お帰りですか?」
そんなことは見ればわかるだろう。
人はいい奴なのだが時々こういう所が気になる。
だからといって、そんなしょうもないことをいちいち指摘してみせるよりは適当に話を合わせておくほうがよっぽど賢い。
それが社会人というものだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:24:24.42 ID:MWLtXdDy0
マスオ「うん。最近は残業も少なくて助かるよー。ノリスケ君も、これから帰るんだろう?」
ノリスケ「えぇ。それにしても、3月もそろそろ終わるってのにまだまだ肌寒いですねー。どうです?マスオさん。
こんな日は一杯キューッとやってあったまりましょうよー。」
彼の悪い癖だ。それほど多くない小遣いをすぐにこうやって飲んでしまう。自分から誘っておきながら、結局相手に奢らせてしまう、なんてことも1度や2度じゃない。僕やお義父さんも何度か被害に遭った。
マスオ「おっ。いいねぇー。……でも悪いけど今日は遠慮するよー。」
ノリスケ「えぇっ!?そんなー。つれないなぁー。
マスオさん、さっき考えごとに耽ってた、って言ってたじゃないですかぁ。悩み事ですか?良かったら僕が相談に乗りましょうかー?」
ほら来た。
相談に乗る代わりに奢ってくれ、と言い出すんだろう。
冗談じゃない。こっちだって、給料日前で懐が淋しいんだ。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:25:32.53 ID:MWLtXdDy0
マスオ「いやぁー、悩みだなんて、そんな大したもんじゃないよー。
最近帰りが遅いってサザエが怒り気味なんだ…。
だから悪いけどまた次の機会に…。」
ノリスケ「そうですかぁ…。それは残念ですね。
……まぁ、僕もたまには早く帰ってタイコやイクラ相手に家族サービスにでも励むとしますかぁー。
それじゃあどうも、おやすみなさい!」
マスオ「うん。おやすみー。」
ふぅ…。最近、どうも気疲れすることが多くなった気がする……。
……最近?
……いや、最近というにはあまりにも長すぎる。これは僕が、フグ田マスオが、磯野家の婿としてやって来た時から……。
その時、またしても僕の肩を叩く者がいた。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:26:25.42 ID:MWLtXdDy0
マスオ「もぉー、ノリスケ君。一体何だい?
何かさっき言い忘れたことでも……。」
しかし振り向いた僕の目が捉えたのは彼ではなかった。
小太りの、スーツを着た見知らぬ男が、薄暗くなりつつあるその路地で異様に明るい目と歯を光らせながら立ち尽くしていた。
失礼な話だが、口の端が耳まで届くのではないかと思うほど口角を上げた彼の笑顔は余りにも不気味だった。
いや、むしろ未だにそれ以上の表現が見当たらない。
ともかく、その「不気味」な笑顔を間近で見せられた僕は
思わず小さな悲鳴のような声を漏らしてしまった。
マスオ「ヒッ…!!」
喪黒「おやおや、申し訳ございません。驚かせてしまったようで…。
どうぞご安心なさってください。私は別にお化けでもなぁんでもありませんから…。」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:28:32.96 ID:MWLtXdDy0
マスオ「え……、あ、いや、す、すいません!!お気を悪くしないでください!!
てっきり、知り合いだと思って振り向いたものですから…。
……それで、あなたは、どなたですか…?ぼ、僕に、何か御用が……!?」
喪黒「ホーーッホッホッホ。いや大変失礼いたしました。
あ、申し遅れましたが、私、セールスマンです。」
そう言うと、彼は一枚の名刺を差し出した。
マスオ「なになに…?…ココロのスキマ、お埋めします…。
モ、グロ、フク、ゾウ……?変わった名前ですねぇ…。」
喪黒「ホーーッホッホッホ。あなた人のこと言えませんよ。
あなたの身の周りの方、みーんな海のものの名前じゃないですか。
違いますか?マスオさん。」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:29:26.19 ID:MWLtXdDy0
マスオ「えぇっ!?ど、どうしてそれを……!!??」
喪黒「いやタネを明かせば実に簡単なことです。
実はさっきのあなたとノリスケさんとの会話を聞いていたんです。たまたまあなた方の後ろを歩いていたもので…。」
マスオ「な、なんだ…。驚かせないでくださいよ…。
……それで?セールスマンのあなたが一体僕に何の用です?
何か売りつけようったって無駄ですよ。自慢じゃありませんが、僕の今月の小遣いはもうとっくに…。」
喪黒「そんなに警戒なさらなくても……。
いえ別に私あなたに何か売りつけようという気はさらさらありません。ただ先ほどから伺ってると、あなた随分気疲れなさってるようで。
どうです?悩み事がある時はパーッとお酒でも飲んで気分を紛らわせるのが一番ですよ。」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:29:46.09 ID:7olFKm+gO
それでそれで?
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:30:13.98 ID:MWLtXdDy0
マスオ「……!!
し、失礼な!!ぼ、僕は別に、悩みなんて……!!」
喪黒「悩みなんて?何だと言うんですか?」
マスオ「な、悩みなんてありませんよ…。
……それに、さっきも言いましたが、僕にはお酒を飲みに行くような持ち合わせが…!!」
喪黒「ホッホッホ。隠しても無駄です。あなた正直な方だ。
顔に全ぇーん部出てます。何かお悩みがあるのでしょう?
お金のことならご心配は無用です。
私が奢りますので、私の行きつけのバーでゆっくりお話をお聞かせ願えませんでしょうか?」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:30:16.81 ID:BZ0M+SF2O
脳内再生率やべぇwwww
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:31:02.38 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――――――
彼は不思議な魅力のある男だった。
初対面の人間にいきなり飲みに行こうと誘われて、誰がそんな気になるものだろうか。
しかし彼にはそうさせる、何か魔力のようなものがあった。実際僕もあの時、自分の心が読まれてるような不思議な感覚を覚えた。この人なら僕の悩みをわかってくれるんじゃないか…。
何故だかわからないがそんな確信めいた気持が僕をここへ連れてきてくれた。
喪黒「着きましたよ、フグ田さん。」
僕は俯きがちだった顔を上げた。
一目入口を見て、ここは彼同様この世のものとは思えないような不思議な雰囲気を醸し出す店だと感じた。
マスオ「魔の巣…。」
変わった名前ですね、と言おうと思ったがやめた。よく考えたらついさっき同じセリフを口にしたばかりだった。
喪黒「さあ、どうぞこちらへおかけください。
……まずはあなたのお話をお伺いさせて頂いてもよろしいですか?」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:32:14.76 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――――――
洒落た店内には落ち着いたジャズ調の音楽とタバコの煙と嗅ぎ慣れない酒の香りとが渦巻いていた。
明るすぎず、暗すぎずといった照明の落ちる中、無口なマスターの佇むカウンターの前に僕と喪黒さんは並んで座っていた。
喪黒「……ほう、あなたはお婿さんなんですか。それはそれはさぞかし肩身の狭い思いをしていることでしょう。」
マスオ「い、いえ。別にそんなことはありません。
……みんな良い人ばかりで、とても居心地がいいんです。
別に婿だから、という理由で不快な思いをさせられたこともほとんど無くて…。」
喪黒「ホーォホォ。それもまた非常に興味深いお話ですな。
それじゃああなたは、一体その日常のどこに不満があるというのです? 」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:32:57.00 ID:MWLtXdDy0
喪黒「全く不満が無いのならあなたがそれほどまでに思い悩むはずはありませんものねぇ。あなたご自分で気付いてらっしゃるかどうかわかりませんが、なんだかとてもご無理をしているように見えます。
私に隠し事はききませんよ?何でも包み隠さず話してください。
さぁ、さぁ、さぁ!!!!!!!!!」
彼はそう言って顔を近づけてきた。
不思議なものだ。つい数十分前に気味が悪いと思ったはずのその顔が、今では恵比寿のように見える。
この人に全てを託してみよう。
自分のありのままをさらけ出してみよう。
気付くと僕は、訥々とそれについて語り始めていた。
自分と、磯野家の関係について―――。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:34:05.75 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――
大した話じゃあない。
ただ、普段胸にしまっている思いを色々と吐きだしただけだ。
もともとは妻と息子との3人で暮らしていたが自分の浅はかな行動が原因で借家を追い出されてしまったこと、
義父も義母も同居を受け入れてくれたが、そういった負い目もあり普段なかなか自分の意見と言うものを口にできないでいること、
ただ愛想笑いと適当な相槌を打つばかりの毎日で気疲れが絶えないでいること、
ここ何年かは盆でも正月でもほとんど実家に帰らせてもらっていないということ、
たまの休みでも「家族サービス」を求められ言いようにこき使われていること、
義弟には事あるごとに小遣いをせびられ夏休みにはほぼ毎年やり残した宿題を手伝わされていること、
……そして最近一番気になっていること―――、
何やら彼らが僕の陰口をたたいているらしいこと―――。
話し出せばきりが無かった。仕事場での大きな悩みから日常の些細な悩みまで、次から次へと溢れ出していった。
彼はそんなしょうもない愚痴を、黙って聞いてくれた。
誰かに話を聞いてもらうというのは久しぶりのことだった。
ひとしきり話し終えたところで彼が言った。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:34:56.61 ID:MWLtXdDy0
喪黒「そうですか。やはり係長や婿養子という立場ではいろいろと人には言いにくい悩みもあるのですね。
それはそれはさぞかし辛かったことでしょう。
興味本位でお伺いしてしまってなんだか申し訳ございません。」
マスオ「いえ…、いいんですよ。
正直、僕もこんな話を相談する相手が周りにいなくて。こうやって話を聞いていただけて、なんだかスッキリしたくらいですよ。ハハハ…。」
喪黒「ホーッホッホ。
あなたはいつもそうやって笑ってごまかしてきたのですね。」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:35:48.89 ID:MWLtXdDy0
マスオ「…え?」
喪黒「あなた顔は笑ってらっしゃるけど、実際は大変気の毒な方だ。
私に話を聞いてもらって気持ちがスッとした?そんなはずはありません。本当はスッキリしたどころかむしろ話す前よりも怒りや鬱憤がさらに強くなったんじゃありませんか?」
マスオ「な…!?…し、失敬な!!!!あなたに何がわかるって言うんです!!??」
喪黒「声を荒げても無駄です。私にはあなたのココロがわかるのです。
いつもスキマだらけのあなたのそのココロ。
セールスマンとしてそれを黙って見過ごすわけにはいきません。
騙されたと思って、ここはひとつ私に全てを委ねてみませんか?
私があなたに代わって問題を解決して差し上げましょう。
決して悪いようにはいたしません。きっとココロから満足していただけることと思います。」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:37:32.47 ID:MWLtXdDy0
マスオ「…ふ、不愉快だ!!!!さっき知り合ったばかりの人間に、ここまで言われてたまるものか!!!
確かに多少不満はあるが、これでも僕にとってあの人たちは大切な家族だ!!!!あなたなんかに口を挟まれるいわれは…!!!!」
喪黒「…そうですか。ご機嫌を損ねてしまったようで、誠に相すみませんでした。
…ですが、もしも私の力を借りたくなった時はまたいつでもご連絡ください。
わたしはこの時間はいつもここにいますので、こちらにいらっしゃってくださればいつでも力になって差し上げます。
それに先ほどの名刺の裏にも連絡先が書いてありますので…。」
マスオ「ふ、ふざけないでくれたまえ!!!!これ以上君に世話になるつもりはない!!!!
君の余計な詮索やおせっかいはもうコリゴリだ!!!!
奢ってもらっておいてなんだが、僕はここで席を外させてもらう!!!!
失礼する!!!!」
そう言って僕は席をたった。
気のせいかもしれないが、店の外に三歩ほど踏み出し、半ば荒げに扉を閉める時に聞こえたあの笑い声が自分の周りに纏わりついて来るような気がして、
気付くと僕は駆け足で駅へと向かっていた。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:38:23.73 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――――――
穴子「やぁー、どうした?フグ田君。なんだか顔色が優れないみたいだが…。」
マスオ「…あぁ、穴子君…。なんだか最近寝不足気味でね…。」
穴子「ほぅ。何かあったのかい?仕事でへまをやらかして部長に怒られたとか、サザエさんと喧嘩したとか…。」
マスオ「いやいや、全然そんなことはないんだけどね…。なんだか、あんまり眠れないんだよ。ハハ。
ただ、それ以外は問題ないよ。体調だって、眠いことを除けばこれこの通り。頗る元気さ。」
穴子「そうかそうか、それを聞いて安心したよ。
ところで、どうだい?今夜あたりちょっと一杯…。」
マスオ「あぁ…。ご、ごめん。色々としごとがたまってて、今日は残業しなくちゃいけなくてね…。
また暇ができたら僕の方から誘うからさ。」
穴子「おーいおいそりゃないだろうフグ田くーん。
まぁ残業なら仕方ないか。じゃあその時は是非、奢ってくれよー。ハッハッハ。」
マスオ「ハハハ…。」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:38:33.78 ID:YScffGuo0
世界観的にあまり違和感無いな。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:38:54.24 ID:KIRQwakzO
これはおもしろい
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:39:48.73 ID:MWLtXdDy0
何気ない話をしている中でもチラチラとあの日のことが思い返される。
最近はずっとあの男の顔と、彼に言われたこととが頭の中を駆け巡ってくる。
あの時はついカッとなってあんな態度をとってしまったが…。
もしかしたら心の底では彼の助けを必要としているのかもしれない。
―――いやいや。僕は何を考えているんだ。こんなくだらないこと考えている暇があったら仕事だ仕事。
結局その日は終電に間に合うギリギリの時間まで仕事をこなし、家路についた。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:40:43.74 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――――――
遅い夕食を済ませ、一番最後の風呂に入った。
すっかり温くなった湯に浸かりながら、それでも幸せをかみしめていた。
―――そうだ。幸せじゃないか。愛する妻がいて、愛する子供がいて、血の繋がってないはずの僕を温かく迎えてくれる家族がいる。
それで充分じゃないか。不満や悩みがあると言ったって、本当に小さなものだ。
きっと、疲れやストレスがたまっているだけなんだ。今日もゆっくり休んで、明日からまた愛する家族のためにバリバリ働いてやろうじゃないか。
鞭を打つようにそう自分に言い聞かせ、風呂を上がった。
マスオ「サザエー。今上がったよー。」
…?
マスオ「サザエー?」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:41:55.42 ID:MWLtXdDy0
おかしい。
いつもなら返事の一つでもしてくれるはずだが…、
聞こえなかったのか?
タオルで体を拭き、服を着てそっと台所へ向かった。
…なにかおかしい。
居間がいやに静かだ。
全くの静寂と言うわけではなく、少し大きめのテレビの音も聞こえるし、みんなが話している声も聞こえる。
ただ、その声はだいぶん潜められていた。
彼らに気づかれないようにゆっくりと台所へ向かう。
会話が聞こえるか聞こえないかくらいの位置まで来て、身をひそめる様にかがみその声に耳を傾けた。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:42:00.87 ID:KIRQwakzO
穴子w
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:42:56.61 ID:MWLtXdDy0
フネ「…サザエ、うまくいってるの?」
サザエ「もーう全然ダメよ。
買いたいものが見つかっても、マスオさんのお給料を考えたらなかなか手が出せないわ。」
波平「まぁそう愚痴るな。金のことは仕方ないじゃないか。」
サザエ「お金だけじゃないわよ…。最近仕事から帰っても」
フネ「…しっ!!声が大きいわよ!!
……こんな話、マスオさんに聞かれでもしたら…。」
……明らかに、「僕に聞かれてはまずい話」をしている。
まさか僕が既に気づいているとは思ってもいないのだろう。まぁ話の内容は察しがつく。
きっと甲斐性が無いだの、婿養子の分際で生意気だのと、僕の陰口をたたいているのだ。
杞憂ではなかった。
騒がしいアクション映画の音に邪魔をされながら、彼らの話を聴き逃すまいとしている自分が情けなかった。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:43:43.93 ID:MWLtXdDy0
先ほどの僕の呼びかけが聞こえなかったのは、きっとこのテレビの音のせいだろう。
恐らく、自分たちの会話を聞かれまいとしてのものだったのだろうが、彼らにとってはそれが裏目に出たようだ。
サザエ「だーいじょうぶよ母さん。あの人ああ見えてけっこう鈍いとこあるから…。あたし達が何考えてるかなんて全然気付いてないんじゃない?」
波平「左様。」
カツオ「……でさ、結局どうやってマスオ兄さんを追い出すのさ?」
フネ「これっ、カツオ!滅多な事を言うんじゃありませんよ。追い出すなんて、そんな…。」
サザエ「そうよー。ちょっとの間いなくなってもらうだけじゃない。人聞きの悪いこと言わないでよー。」
カツオ「あっごめんごめん。でも皆、マスオ兄さんにはどっかに行ってもらってたほうが都合がいいわけでしょ?」
波平「左様。まぁー、決行の日はまだまだ先だし、口実はじっくり考えればよかろう。」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/31(土) 23:44:57.49 ID:vZ8zuYFy0
サザエとマスオがセックルしているところが浮かばない
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:44:57.48 ID:MWLtXdDy0
ワカメ「それよりもお姉ちゃん、タラちゃんはどうするつもりなの?マスオ兄さんについていきたいって言ったら色々と都合が悪いんじゃない?」
サザエ「そうねぇー。タラちゃんはどうする?」
タラオ「僕もみんなと一緒に家に残りたいですー。色々と準備が大変みたいですし・・・。」
サザエ「じゃあ、決まりね。じゃあ当日、マスオさんには私の方から呼び出して話をするわ……。」
マスオ「もうたくさんだ!!!!!!!!」
気付くと、発作的に飛び出し、こう叫んでいた。
目の前の僕の姿を見て彼らはどんな顔をしていただろう。
両の拳を固く握り、肩をいからせながら俯きがちに震える僕は、どんなふうに映っただろう。
怒れる獅子のように見えただろうか。
脅える小動物のように見えただろうか。
彼らの方は、そんなことよりも、僕に話を聞かれていたということに動転し青ざめていたかもしれない。
ただ、僕にはどうでもよかった。自分の中のあらゆる感情が爆発した。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:45:12.13 ID:vZHWLMXW0
カツオww
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:45:33.88 ID:KIRQwakzO
左様w
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:46:22.19 ID:MWLtXdDy0
マスオ「気付かれていないとでも思っていたんですか!!??
皆で寄って集まって、僕の悪口を言うだけならともかく、追い出す相談まで…!?
ふ ざ け る な!!!!!!!!!!!
確かに僕は、稼ぎも少ない!!
この年になって自分の家を買う目処もついてない!!
あなたたちに何をしてやることもできない!!!!
あなた達が、甘えるように婿養子として転がり込んでそのまま居ついてしまった僕に対してそうやっていろんな不満を持つのは仕方ない……!
それは僕だって分かってる…!!
ただ、僕に何か言いたいことがあるんなら…、
そうやって隠れてこそこそ噂話をするくらいなら、はっきり言ってくれればいいじゃないですか!!!!!!!」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:46:26.67 ID:o1SJkagqO
これはひどい扱い
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:47:14.82 ID:MWLtXdDy0
サザエ「あ、あなた、違うのよ!これは…!!」
波平「そ、そうだ、マスオ君。ワシらはただ…!!」
マスオ「ただ!?ただ何です!!??
ただ、出て行って貰いたがってる!!??
ああ、いいでしょう!!!出ていきますよ、こんな家!!!
この家は僕の居場所なんかじゃない!!!!!
僕の居場所は、僕のいるべきところは……!!!!!!!」
言いながら、涙が止まらなかった。その後の彼らの言葉は全く耳に入らなかった。
遅すぎた。
全てが、遅すぎた。
僕は、ただ子供のように泣き喚きながら逃げるように家を飛び出した。
靴もはかず、財布も何も持たず。
外に出た後も後を追う家族の叫び声が聞こえたが、振り返らずにひたすら走り続けた。
一つだけはっきりしていたこと。
僕の居場所はあの家じゃない。
僕の行くべきところは、もうあそこしかない。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:48:13.53 ID:MWLtXdDy0
寝間着姿で泣きながら走り去る裸足の男。
どう考えても変質者だ。巡回中の警官でもいれば職質されていただろう。
何人かすれ違う人の視線が痛かったのを覚えている。
それでも、僕はあの店まで走り続けた。
白い息を弾ませながら、すっかり湯冷めした体で少しばかり重いドアを開けた。
喪黒「ホーッホッホ。やーっぱり来ましたね。ずっとお待ちしてましたよ。
この時期の夜風はさぞかし冷たかったことでしょう。さあ、どうぞこちらへ――――。」
思いつめた顔で立ち尽くす僕を、彼は満面の笑みと温かなホットバタードラムとで出迎えてくれた。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:49:26.77 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――――――
フネ「本当に…、どこへ行ったのかしらねぇ…?」
サザエ「ああ…!!心配だわ…!!」
カツオ「姉さんゴメン…。僕のせいでマスオ兄さん、勘違いしちゃったみたいで…。」
波平「いや、カツオのせいだけではあるまい。
確かに、あの状況で『追い出す』という言葉を耳にすればマスオ君でなくとも勘違いしたかもしれんが、責任はワシらにもある。」
サザエ「そうね…。こそこそ隠れて話なんかしてたらおかしいわよね…。
それにマスオさん、ここのところ仕事場でのストレスがたまってたみたいだったし…。本当にどこへ行っちゃったのかしら…!!」
ワカメ「ごめんね、みんな…。アタシがこっそりマスオ兄さんの誕生日会の計画をしようなんて言いださなければ……グスン。」
フネ「何言ってるのワカメ。さっきもお父さんがおっしゃったとおり、誰のせいってことはないんですよ。
タラちゃんもワカメもいつまでも泣いてないで、子供たちは早いとこ寝ちゃいなさい。」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:50:34.12 ID:MWLtXdDy0
タラオ「嫌です〜。パパが帰ってくるまで起きてるですゥー。」
フネ「ほら、わがまま言わないで…。」
サザエ「……いいわ、母さん。私も少し落ち着いてきたし、タラちゃんは私が寝かせつけてくるわ。
ほら、カツオもワカメも学校があるんだから早いとこ寝ちゃいなさい。」
カツオ・ワカメ「はーい。」
フネ「…本当に、どうしたものですかねぇ…。ご近所の方にもご迷惑をおかけしましたし…。早いとこ見つかればいいんですけど…。」
波平「まあ、そう気をもむこともないだろう。ご近所の方には明日適当に言い訳とお詫びをしておいてくれ。
あまり騒ぎたてて事が大きくなるとマスオ君も帰ってきづらいだろう。
マスオ君の方も無断欠勤と言うわけにもいかんだろうから会社に連絡を入れるだろう。
その前に、こちらから上司の方にだけ事情を話してそれとなくマスオ君の連絡先を聞いてもらっておいて、ほとぼりが冷めたところでこちらから連絡すればよかろう。」
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:51:22.05 ID:MWLtXdDy0
フネ「そうですね…。それじゃ、私達もそろそろおやすみしますか?」
波平「うむ、そうするとしよう。
探しに行きたくても、手がかりもない上にさすがにこんな夜中じゃどうしようもあるまい。
なぁに、マスオ君も大人だ。夜が明ければ少しは冷静さを取り戻してくれるさ…。」
結局、それから1時間もしないうちに磯野家は寝静まった。
――これから先に自分たちの身に降りかかる惨劇を予期できる者がいようはずもなかった。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:51:27.90 ID:KIRQwakzO
船「あっ…穴子さん…そんなとこナメちゃ…らめ…」
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:52:47.35 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――
マスオ「はぁー。」
穴子「おやぁ?どうしたんだいフグ田くーん。まぁたため息なんかついちゃって。」
マスオ「え?い、いやぁ…。ちょっとね…。」
喪黒さんにあのことを依頼してから、3日経った。計画は無事進んでいるのだろうか。
彼が言うにはこういうことらしい。
計画を実行するにはいくらかの下準備が必要だ。彼がその準備を行っているその間、僕はいつも通りに会社へ通っている必要がある。
彼は、僕に代わりのスーツとカバンを寄こしてきた。
それを身にまとっていつも通りに通勤し、磯野家に帰る代わりにホテルへ泊まるようにしてほしい、とのことだ。
その代金も全て彼が受け持ってくれるようだが…。
いくらボランティアだとは言ってもここまでしてくれるなんて、やはりかなり奇妙な人間だ。
まあ今は僕の方にも他に頼りにできる人がいない。
アナゴ君や他の同僚に相談したところで、どうせ家に帰って謝るべきだとかなんとか僕を諭してくるだろうし、実家へ帰ってもまぁ似たような反応をされるだけだろう。
今は、喪黒さんに全てを委ねるしかない。
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:53:43.41 ID:MWLtXdDy0
実際、彼の仕事は完璧だ。
この替えのスーツとカバンも、どこから調達してきたのかはわからないが、今まで僕が使っていたものと何一つ変わらないように見える。
内胸に施された刺繍や、普段はそれほど気にも留めないような小さなシワやクセの一つ一つまで再現されている。
会社の方に磯野家から連絡が来るだろうことも覚悟していたが、
それとなく上司に探ってみてもそういった類の電話は受けていないらしいところを見ると、事前に何かしらの手を打ってくれていたようだ。
今僕にできることはただ、彼を信用して、計画の準備が整うのを待つこと―――。
それだけだ。
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:54:43.37 ID:MWLtXdDy0
穴子「やっぱり何か悩みでもあるんだろう?僕でよかったら話を聞いてやるよ。もちろん、君がおごってくれるならの話だがね。はっはっは。」
マスオ「いやぁ、別にそんな悩みだなんて…。あっ。」
メールが来た。
喪黒さんからだ。
穴子「遠慮するなよー。僕と君との仲じゃないか。今夜あたりいつもの店で…。」
マスオ「ごめん。大事な用ができたみたいだ。今晩は人とBARで飲まなきゃいけないんだ。」
穴子「ふーん…。その、人ってのは誰なんだい?」
マスオ「取引先の上役だよ。君も知ってるだろ?川岡商事の…。」
穴子「ああ、あの人か。じゃあ仕方ないな。まあまた気が向いたら誘ってくれよー。」
マスオ「うん…。」
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:57:19.68 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――
『魔の巣』
―――ここは何度来ても、初めて来た時と同じような違和感を感じる。
この中に喪黒さんがいると思うと尚更だ。
…なんだか変に緊張する。胸の鼓動が幾分早い。手にはしっとりと汗が滲んでくる。
落ち付け。何も悪いことをしに来たんじゃない。
ただ、酒を飲みに来ただけだ。2回だけ深呼吸をして、ゆっくりとドアを開けた。
喪黒「ホーッホッホ。お待ちしてましたよフグ田さん。ようやく下準備が整いました。
あとは、今晩の『決行』を待つのみです。
それを以てあなたは完全に、悩みのない幸せな日々を取り戻すことができるのです――――。」
―――手だけじゃなく、全身に汗が滲むのを感じた。
喪黒「さぁさ、こちらへどうぞ。今日は私が何でもおごっちゃいます。
なぁんでもお好きなものを召し上がってください。
何しろ私のほうには、あなたにお話ししたいことが山ほどありますのでね…。
………ホーッホッホッホ。」
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:58:21.67 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――
まだ寒さが残る真夜中、一人の男が静かに歩きだした。
僅かに街灯に照らし出されたその口元は、見る者を怯ませるような冷たい微笑みに満ちていた。
男は向かった。
ある家族を消し去るために、彼らの家へと。
一歩一歩進むその足取りは、それほど長くない足のせいか、少々重いようにも見えた。
時折漏れる小さな笑い声には異様な雰囲気が備えられている。
彼は悪魔か、それとも天使か―――?
―――数分後、目的の家に辿り着いた。
彼はいたって冷静に玄関の引き戸を2、3回たたく。
返事がない。
それはそうだ。何しろこんな夜中だ。かといって執拗に何度もたたくわけにはいかない。
しばらく待った後、男はもう一度戸を軽くたたいた。
「…どちら様ですか?」
そう問いかける声は、いくらか年をとった女のものだった。
つい今しがたまで気付かなかったが、引き戸越しにうっすらと見えるその影の様子から察するに、一度目のノックで彼女はすでに起きていたと見える。
当然と言えば当然だが、こちらが何者なのかを伺っていたのだろう。
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:59:34.95 ID:MWLtXdDy0
「…夜分遅くに失礼いたします。私、セールスマンをやっている者でして…。
おたくに、フグ田マスオさんという方がいらっしゃいますね?彼のことで少しお話したいことがあるのですが…。」
その名前に、影は確かに反応した。
「…マスオさんについて何かご存じなのですか?あなたはマスオさんの知り合いか何かで…?」
予想通りの反応だ。男は口元の笑みを崩さず、低く落ち着いたその声でこう続けた。
※※日付変更によりID変更 MWLtXdDy0→Q+JJ72kN0※※
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:00:50.22 ID:Q+JJ72kN0
「ええ。こんな夜中に大変申し訳ないのですが、こちらにもいろいろと事情がありまして…。
実は、今まで彼をかくまっていたのはほかでもないこの私なのです。
おっしゃる通り、彼とはちょっとした知り合いでして…。
数日前に突然私のもとを訪ねて来た時、彼は軽い心神耗弱状態にありました。
話を聞き出すのにも数日かかり、それを私なりに冷静に判断し、大体の事情を得るに至りました。
事の経緯を察するに、彼があそこまで追い詰められるに至った原因はあなた方にあるようです。
ただ、あなた方にはあなた方なりの言い分があることでしょう。
もしよろしければそれをお伺いさせていただきませんか?
あなたのお話の内容によっては、私のほうとしても、彼の説得に際して何らかの形でお力添えをさせていただくつもりですが…。」
「…!彼は無事なんですね…?」
「ええ。彼は今…。」
「ちょっとお待ちください。…立ち話というのもなんですので、どうぞお上がりになって、詳しい話をお聞かせ願えませんか?」
男の口角がいやらしいほどに上がった。
「…ええ。是非に。」
そして、彼女は鍵を開け、ゆっくりと戸を引いた――――。
その瞬間男は、老婆のその体に、あくまでも冷静にナイフを突き立てた。
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:01:55.32 ID:MWLtXdDy0
フネ「………!!!」
刺すと同時に、叫び声が漏れないようにその口を手で押さえた。
老婆の体がガクガクとふるえ、顔色は見る見るうちに変わっていった。
何かを強く訴えかけようとしていたその目も次第に閉じていき、遂に彼女は意識を失った。
お気に入りのスーツに返り血が飛び散らないよう十分に注意しながらナイフを抜きとり、重く枝垂れるような老婆の体を手から離し、男はいったん玄関脇に身を潜めた。
「…何の音?」
家の奥から若い女の声がした。ふすまを開ける音が聞こえた後、その声の主のものと思われる足音がこちら側に近づいてきた。
「……!!!母さん!?母さん!?何があったの!!??かあさ…!!!」
翻すようにその身を現した男は、意識のない老婆の体を抱きかかえようとする女の頭の上に、容赦ない一撃を加えた。
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:02:21.13 ID:EXr5EYlfO
きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:02:44.58 ID:MWLtXdDy0
…なんて脆い奴らだ。
大声で笑いそうになるのをこらえて、彼はそのまま家へと上がって行った。
中に残っているのは子供と老人だけだ。なんと簡単な仕事だろう。
結局その後、男が一家を一人残さず始末してバーに戻るまでには、ほんの1時間程度しか要しなかった。
―――言い忘れたことがある。
その日は、とても月の綺麗な夜だった。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:03:00.92 ID:4RisiEeRO
ヤバい。手が震えてきた。
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:03:06.78 ID:K3LpX54TO
気になって勉強が手につきません
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:03:33.48 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――――――――
フグ田マスオはその朝、どうしようもないほどの体の熱を感じながら飛び起きた。
マスオ「ハァ、ハァ……!!!!
…夢…?」
サザエ「あなた、どうなさったの?随分とうなされていたみたいだけど…。」
傍らにいた妻が心配そうに見つめている。先ほどから何度か声をかけてくれていたらしかった。
マスオ「……い、いや、なんでもない…。ちょっとおかしな夢を見てしまってね…。き、きっと疲れがたまってるんだろう。ハハハ…。」
サザエ「…そうね。あなたここのところ忙しかったものね。早く疲れを取るためにも、今日一日はゆっくりお休みになって。」
マスオ「悪いがそうさせてもらうよ。ありがとう。」
サザエ「あ、そうそう。あなたに精を付けていただこうと思って、今日のお昼ご飯はうな重をとることにしたのよ。
だからそれまでには起きてきてね。」
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:04:29.27 ID:Q+JJ72kN0
そう言って妻は部屋を出て行った。
ふすまを閉める音と、台所へと向かうパタパタという足音とがこの静けさの中で妙に響いた。
一体、あの夜
喪黒さんは何をしたって言うんだ?
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:05:25.99 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――
あの夜僕は、何もかもを忘れてしまいたい衝動にかられて浴びるように酒を飲んだ。
いつの間にか酔いつぶれてしまっていたようで、気づいた時には魔の巣の目の前の通りで、白み始めた空を見上げながら大の字に横たわっていた。
そんな経験は今までの人生の中でもほとんどしたことが無かった。
ただ、そこに喪黒さんの姿はなかった。
僕を置いて先に帰ってしまったのか、或は―――、
僕の依頼を、『決行』していたのか――――。
酔いの残るまま重い足取りで会社に向かい、いつも通りの残業も終えてホテルに戻ろうとしたとき、彼に出会った。
喪黒「これはこれはフグ田さん。こんな所で会うなんて奇遇ですね。」
彼はそう言って、会釈をする代わりに右手で帽子を軽く持ち上げた。
奇遇だって?奇遇であるものか…。
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:05:28.34 ID:E8KxETLkO
夢か…よかった〜
106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:06:19.87 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「喪、喪黒さん…。」
喪黒「ホーッホッホ。どうしたんですかそんな怖い顔をして。
昨夜は相当に飲んでいらっしゃったようですが、どうですか?おからだの調子は。」
マスオ「え、ええ…。昼過ぎまではまだ少し具合が悪かったんですが…、もうだいぶ良くなりましたよ。」
まったくもってつかみどころのない男だ。こうして目の前で話していても、彼が何を考えているのかさっぱりわからない。
…そうだ。そんなことよりあれを聞かなければ。
計画はどうなったのか―――。
喪黒「うまくいきましたよ。」
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:07:19.71 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「なっ……!!??」
喪黒「おや、これは失礼いたしました。その驚きようから察するに、あなた今ちょうど計画のことを考えてらしたようですね。
ご安心ください。ことは全て首尾よく片付きました。何ら抜かりはありません。」
マスオ「え…。じゃ、じゃあ、もしかして…。」
喪黒「ええ。ホテルと会社を往復する生活は今日でおしまいです。
どうぞ磯野家にお戻りください。
そこに、あなたの待ち望んでいた『幸せな磯野家の暮らし』があるはずです。
ホーッホッホ。」
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:08:18.95 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――――――――
そして僕は今の生活を手に入れた。
妻も義父母も義弟妹も息子も、皆が優しくしてくれる。
僕をこの上なく慕い、気遣い、満たしてくれる。
ここは紛うことなく、僕が長らく理想としていた磯野家のはずだ。
――――しかし、どう考えてもおかしい。
僕が大騒ぎして家を飛び出したあの夜のことも、
その後何日も家に帰らずにいたことも、
一切の連絡を絶っていたことも、彼らは何一つ聞いてこなかった。
いい歳をして家出をし姿を眩ませた僕を責めるでもなく、何事もなかったかのように迎え入れてくれた。
112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:09:16.33 ID:Q+JJ72kN0
正直、わけがわからなかった。
初めは僕に気を遣ってその話題に触れないようにしてくれているのだろうと思っていたが、違った。
一度、思い切って僕の方から家出のことについて切り出してみもしたのだが、彼らは揃って顔の上に疑問符を浮かべた。
示し合わせたとかでもない。
本当に、全員の頭の中からあの夜に関する記憶の一切が抜き取られていたみたいだった。
もしかしたら自分は、昔読んだSF小説に出てきた"パラレルワールド"みたいな、どこか違う次元にある世界に迷い込んでしまったのではないか、とさえ思った。
一体、どういうことなんだ…?
「ちわーっ。うな重7つ、お届けに参りましたー。」
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:10:20.23 ID:Q+JJ72kN0
引き戸を開ける音と共に聞こえた若い声が、僕の思弁を断ち切った。
続けて、笑いながら文句を言う声が聞こえた。
サザエ「遅いじゃなーい。待ちくたびれたわよー。」
聞き慣れたはずの声は、もはや僕の知らない人間の声だった。
襖を開け、出前持ちの男に金を払う女をぼんやりと眺めた。
あれは果たして、本当に妻なのだろうか…?
その僕の姿に気付いた彼女が、受け取ったばかりのうな重を玄関に残してこちらに近づいてきた。
サザエ「あなた、本当にどうしたの?ぼーっとしちゃって。
…さっきのうなされかたといい、やっぱり変よ?熱でもあるんじゃ…。」
目をそらす代わりに俯いた僕を気遣うそぶりを見せる。
額に当てられた手が異様に冷たい。
彼女が僕の目を覗き込むように見てきた。
そのまま、僕が目をそらすまでの間、ただただじっと見続けていた。
・・・ ・・・・・・・・・・・・
――――彼女は、全く瞬きをしていなかった。
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:11:28.99 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――
タラオ「うな重、おいしいですぅー。」
ワカメ「ほーんと、鰻なんて久しぶりねぇー。」
カツオ「姉さん、何かいいことでもあったの?」
サザエ「別に何もないわよー。たまにはあたし達だって楽したいじゃない。ねぇ、母さん?」
フネ「そうだねぇ。時々はこうやって店屋物をとるのも、悪くないわねぇ。」
波平「左様。」
カツオ「ふーん。まぁいっか!おかげでこうして美味しいものが食べられるんだから。
あ、そうだ!これから休みの日のお昼ご飯は出前、ってことにしたらいいんじゃない?
その方が母さんも姉さんも助かるでしょ?」
サザエ「調子に乗らないの!」
波平「左様。」
一同「ハハハ……。」
サザエ「あら、どうしたのあなた?全然箸が進んでないじゃない?」
マスオ「ん?いやぁ…。あまりに美味しいもんで、ゆっくり味わってたんだよ。ハハ…。」
カツオ「マスオ兄さん、食欲ないの?だったら、僕が代りに食べてあげよっか?」
ワカメ「もーぅ、お兄ちゃんったらー。」
119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:12:32.75 ID:Q+JJ72kN0
笑い声の絶えない食卓。
一家団欒の平和な休日。
優しい妻と、家族たち。
全部、僕が思い描いていたままじゃないか。
それがやっと手に入った。
なのにこの気持はなんだ?
屈託のない彼らの笑顔を見ているうちに、それがどんどん歪んでいって皆同じ顔になった。
ふっくらとした輪郭。
半月型の目。
特徴的な形の鼻。
耳まで届きそうな口。
僕をこの仮初の『幸せ』に導いてくれた人物。
喪黒福造。
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:13:57.81 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――
その夜、僕は人通りの少ない公園に出かけた。
彼、喪黒福造に会うためだ。
『夜、心細く彷徨う人を正しい道から踏み出させ、
沼地やぬかるみに迷わせて、遂には沼や池へと誘い込む』
ちょうどこんな真夜中に道を歩いていたからだろうか、なぜか学生時代読んだミルトンの詩が頭を過った。
公園の入口まで来た時、既にブランコに腰掛けて僕を待ってくれていたであろう人影が目に入った。
喪黒「ホーッホッホ。どうしたんですかフグ田さん。急に『会って話がしたい』だなんて…。しかも、こんな夜遅くに。
あんまり遅い時間に出かけると、ご家族の皆さんも心配なさるでしょう?」
マスオ「いえ…。その…、お聞きしたいことが…。 それに、家族はその…、みんな寝ちゃいましたから…。」
喪黒「そうですかそうですか。
それで、どうしました?何か気になることでもあるのですか?」
全てをはっきりさせなければいけない。
そのために今日僕はここへ来たのだ。
マスオ「……喪黒さん。
あなたは……、あなたは一体何をしたんです……!?
彼らを……、磯野家の人たちをどこへやったんです…!!??」
123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:14:59.73 ID:Q+JJ72kN0
喪黒「……。」
マスオ「……確かに、今の彼らは、僕の思い望んでいた幸せを与えてくれようとする。
あなたに打ち明けた僕の不満は、形の上では全て解消されたかもしれない…!!
………だが!!!
僕は、あんなものを望んでいたわけじゃない………!!!!
あんなものは偽物だ!!!!!
偽物……!!そう…、彼らは偽物だ……!!!
本 物 の 磯 野 家 の 人 た ち は、どこに行ったんだ!!!!????」
喪黒「……何をおっしゃってるんでしょうか…?」
マスオ「とぼけないでください!!!
あれは全て、人 形 だ!!!
ここに来る前に確かめてきたんだ……!!!
悪いとは思ったが、寝室で寝ている妻と子にスタンガンを当てた…!!
途端に彼らはショートして、体から火花と黒い煙をあげたよ…!! 他の奴らにも同じことをした…!!
彼らは、人間じゃなかった……!!!!」
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:16:00.51 ID:Q+JJ72kN0
喪黒さんは、おもむろにブランコから立ち上がり、僕の方へ2、3歩歩み寄ってきた。
暗闇で見る彼の姿に、先程のミルトンの詩のウォーター・シェリーが重なって見えた。
喪黒「……おっしゃる通り、あれは私が用意したアンドロイドです。
しかし、それのどこがいけないのでしょうか?
彼らはあなたを愛してくれたでしょう?
温かい温もりも、優しい笑顔も、溢れる愛情も、幸せな家庭も。
あなたが欲しがっていたものを、すべて与えてくれたはずでしょう?
あなたがココロから望んでいた願いを、ひとつ残らず満たしてくれたでしょう?」
127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:17:08.05 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「…馬鹿な!!! 僕はあんなもの、望んじゃいない!!!
僕はあなたに、そんなことは頼んでいない!!!
確かに、彼らに不満が無いわけじゃなかった…!! 僕は磯野家の人たちに嫌われていると思っていた…!!
しかし、それでも僕は磯野家の人たちを愛していたんだ!!!!!!!!
あんな出来そこないのマネキン人形が僕を愛していただって!?
ふざけるな!!!!僕はおままごとがしたいわけじゃない!!!!!!
……さあ!!!!!!!!!!!!
磯野家の人たちを返してもらおうか!!!!!!!!!!!!!」
喪黒「ですから、なにをおっしゃってるんですか。
私は磯野家の皆さんそっくりのアンドロイドをご用意しただけですよ。」
マスオ「……え……?」
喪黒「ホーッホッホ。もしかしてあなた覚えていらっしゃらないんですか?
自 分 が 彼 ら を 殺 し た こ と を。」
128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 00:17:13.43 ID:G1JJTDcRO
スタンガンてww
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:18:32.60 ID:Q+JJ72kN0
―――その瞬間、あの夜の記憶が全て蘇った。
僕は、魔の巣で酔いつぶれてしまったわけじゃなかった。
浴びるように飲んだ酒。
磯野家へ向かう道中。
声色を変えて話した玄関先。
彼らを刺した感触。
苦痛に歪む顔。
その全てがフラッシュバックのように蘇った。
あれは、夢なんかじゃなかった。
マスオ「うあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
喪黒「思い出したようですね。あなたが息を巻いて彼らを殺しに行く、と言って店を飛び出した時は私も驚きましたよ。
お酒を飲んで気が強くなっていたんでしょうが、まさか本当にするとは思いませんでしたよ。
私の当初の予定では、あのアンドロイドと一緒にどこか違う場所で生活していただくだけのつもりでした。
家族と言えば聞こえはいいでしょうが、所詮は他人です。
それよりは、あなたのために尽くしてくれるロボットと一緒に生活する方がよっぽど幸せだろうと思ったのです。
それが、あなたのその行動のせいで予定を変えざるを得なくなったのです。
突然磯野家の人々が居なくなってしまえば大事件です。
そこで彼らの死体を隠して、アンドロイドに彼らの代わりを演じてもらっていたんですよ。
しかし今やそのアンドロイド達も、あなたの手によって破壊された…。
どうするおつもりです?今度こそ、磯野家の人々は完全にこの世の中から抹殺されてしまいました…。」
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:19:34.23 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「あああああああ………!!!!」
痛い。
頭が割れるようだ。
死にゆく彼らの顔が、姿が、次々と僕の頭を駆け巡る。
激しい痛みに苦しみながら逝った彼らが今、僕をこうして苦しめている。
喪黒「……困りましたね。
仕方ありません。壊れたアンドロイドは私が回収することにします。
しかし、あとのことはフグ田さん、ご自身でなんとかなさってください。」
マスオ「……そんな……!?
い、嫌だ…!!!喪黒さん、なんとかしてください!!!
あなたなら、何とかできるでしょう!!??僕を助けてください!!!!!」
喪黒「今さら取り返しがつくわけないでしょう。死体を隠したりアンドロイドを作ったりするぐらいならできますが、
いくら私と言えど死んだ人を生き返らせるなんてとてもできません。」
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:20:43.72 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「……くっ!!
嫌だ!!!なんとかしろよ!!!!
……そうだ……!!!
元はと言えば、アンタが悪いんだ!!!
大体、ロボットなんかじゃなくて、直接奴らを催眠術か何かで僕の都合のいいように洗脳してしまえば良かったじゃないか!!!!!
何でそうしなかったんだ!!??え!!??
そ、それに、僕が奴らを殺しに行くのを止めることだってできたはずだろう!!!!」
喪黒「なーにを馬鹿げたことをおっしゃってるんですか。
彼らには彼らなりの生活があったんです。あなた一人のためにあの人達の人生を無駄に費やさせるわけにはいきません。
それに、彼らを殺したのは紛れもなくあなた自身なのです。
その責任を私になすりつけるなんてとーんでもありません。」
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:21:36.76 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「うるさいうるさいうるさい!!!!!!
僕は捕まりたくない!!!人殺しで一生織の中なんて、絶対に嫌だ!!!!
あいつらを生き返らせられないんなら、せめて僕が捕まらないように何とかしてくれ!!!!!!!!」
喪黒「やれやれ…。困った人ですね。
……わかりました。『あなたが捕まらなければ』それでいいんですね?」
マスオ「そ、そうだ!!!あんな奴ら生き返らなくたって、知ったこっちゃない!!!!僕さえ助かれば……!!!」
喪黒「それじゃ、何とかやってみましょう。
その代り、どうなっても知りませんよ?」
マスオ「なんでもいいから、早く!!!!!!!!!
早くしてくれ!!!!!!!!!!!!」
喪黒「ホーッホッホッホ。
では……、
ドーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:22:29.77 ID:Q+JJ72kN0
――――――――――――――
三郎「ちわーっ。三河屋でーっす!
浜さーん!お酒とお醤油、お届けにあがりましたーっ!!」
浜「はーい。お酒とお醤油一升ずつ…。はい、確かに。
サブちゃん、いつもいつもありがとねぇ。」
三郎「いえいえ。それじゃ、どうも失礼しまーす!!」
三郎「ふーっ…。あとは、磯野さん家だけか…。」
三郎「ちわーっ。三河屋でー……うっ!!??
な、なんだ、この臭いは……!!??」
146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:23:30.09 ID:Q+JJ72kN0
三郎「サザエさーん!?フネさーん!?誰もいらっしゃらないんですかー!?
……そ、それにしても、なんだこの酷い臭いは…!?
ちょ、ちょっと上がってみるか…。すいませーん!誰もいませんかーあひゃああああああああああああああっ!!!!!!!!???」
そこで三郎が目にしたのは、居間に転がる腐敗した六体の死体と、そこに立ち尽くす一人の男の姿だった。
三郎「あ、あ、あああ…!!!
マ、マスオ…さん……!?」
三郎「マ、マスオさん…!!??ここここれはどどど、どういうことですか………!!??」
マスオの姿をしたそれは三郎の言葉に返事をする代わりに、こうつぶやき続けた。
『ピーッ、ピーッ、ピーッ…。
データが初期化されています…。
必要な情報を入力してください……。データが初期化されています…。必要な情報を…………。』
149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:24:51.82 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――――――――
人通りのない路地を揚々と歩く男がいた。
真黒なスーツと帽子とが印象的なその男は不意にその足を止め、振り返りこそはしないが、まるで誰かに語りかけるようにこう呟き始めた。
「いやー。今回ばかりは大変でした。
まさかこーんなことになろうとは…。
……言っておきますが、あたしゃ嘘はついてませんよ?
あれはあくまでもマスオさんじゃなくて、マスオさんそっくりのただの
ロ ボ ッ トなんですから…。
……あなたは、ご家族とはちゃーんとうまくいってますか?
もしも悩みや不満があるようでしたら、無理してあんまり溜めこまないようにした方がいいですよ?
我慢し続けたその先には、恐ろしーい結末が待ち構えているかもしれませんからね……。
ホーーーーーホッホッホッホ!!!!」
完
150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:24:54.89 ID:Uo7xfMPfO
ドーーン来たー
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:10.18 ID:EF1Y4YTHO
>>1おつ
おもしろかった
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:14.53 ID:ywc7OKceO
>>1乙
すごいわ
155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:15.12 ID:Q+JJ72kN0
終わり!!!!!
最後まで読んでくれた人サンクス。
今から過去レス読むから質問ある人は適当に書き込んでて。
後で答えます。
157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:24.53 ID:5fpjGjv6O
>>1乙
158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:25.15 ID:Uo7xfMPfO
乙
うまくまとまってて面白かったです
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:25.83 ID:s/XplyvGO
>>1乙!!
楽しかったぜ
160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:26.40 ID:sJ7BOYjQO
乙カレーライス
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:33.51 ID:kYhdqV0iO
乙!
162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:42.16 ID:Y3dFUWUFO
ほ
163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:41.66 ID:fy55f8xQO
>>1おつですー!
おもしろかったでーすー!
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:47.89 ID:hJySDLDSO
>>1乙
おもしろかったわ
サザエキャップ
販売元:ジグ
クチコミを見る
喪黒「……私の名は、喪黒福造。人呼んで笑ゥせぇるすまん。
ただのセールスマンじゃございません。
私の取り扱う品物は『ココロ』。
人 間 の コ コ ロでございます…。」
喪黒「……この世は老いも若きも、男も女も、ココロの寂しい人ばかり、
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭も戴きません。
お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます…。
さて、今日のお客様は………。
ホーーーーーーホッホッホッホ!!!!!!!!」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:06:13.40 ID:SeU5JIA2O
>>1先生の次回作にご期待ください!
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:07:58.25 ID:jXdi2OD7P
中盤どうなることかと思ったけど持ち直したな
乙!
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:18:06.20 ID:UfFFhcTu0
_,,、--――-- 、,
/´::::::::::::::::::::::::::::::::::::`',
,r''j´ ̄ `ヽ、 /::::_;;、--――-- 、;;;:::::::l
/ / ヽ /゙´,,. --―――-- 、,,`゙ヽ!
l / |l;:´---;=t;;ァ┬┬t;;ォ、、,_`ヽ|
l, ,'::ハ,゙´ ノ,、 l, ヽ,゙l::〉‐、 ド゙ーン!!!!!
人 ノ ' ヽ、... 'r'゙ ヽヽ、.... -' Y 〈
/ `''┬―‐'´ヽ-、 l''ー;=、;_―゙ニ゙-----__,ニ'' | ヽ
/ `''ー、,、 `ト-!、__| ̄Τ ̄「 ̄|__,/ j ノ
./ , / ,、 ハ;ト 、,.二,^,二,二´,./ /-ヘ
| `''ー---|. 〈 ヽイ \、L.,,__|__,,.」.../ ,イ:::::::::゙i,
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:22:47.94 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――――――――
マスオ「はぁ…。今日も疲れたなぁ…。」
その日も、僕は普段通り定時に仕事を終え、家路についていた。
全く、会社勤めなんてものにはいつまで経っても慣れる気がしない。
係長などと言えば多少聞こえはいいが、仕事ばかり多くて給料はヒラにほんの少し毛の生えた程度。
内容だって大してやりがいがあるものじゃあない。
課内のコミュニケーションをとるのもなかなか楽ではない。
嫌みを垂れる上司と愚痴をこぼす部下との間で板挟みになり、たまに女性社員から受ける『悩み相談』なんてものは恋人がどうの結婚がどうのと、作り慣れた笑顔で適当に相槌を打っていれば満足してくれる程度のレベルのものでしかない。
結局のところみんな不満のはけ口が欲しいだけなのだ。
さんざん疲れて、早く帰って眠りたい、と思っている時なんかでも
同僚に誘われればそれを無下に断るわけにもいかない。徹夜での麻雀や一杯飲み屋の梯子。翌日には必ず狭っ苦しい電車内で
『いつまでも若いわけじゃない、ってのはこういうことを言うんだろうな』と呟くことになる。
(……平凡だなぁ。
……僕の人生って、可もなく不可もなく
ずぅーっとこんな感じで続いていくんだろうか……。)
そんなことを考えながら歩いていると、ポンポン、と不意に肩を叩かれた。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:23:44.20 ID:MWLtXdDy0
ノリスケ「やーっぱり。マスオさんじゃないですかー!?」
マスオ「や、やぁー。ノリスケ君。奇遇だねぇ。」
ノリスケ「どうしたんですかぁ?さっきから何回か呼びかけたのに、全然返事してくれないんですもん。一瞬、他人の空似かと思っちゃいましたよー。」
マスオ「えっ?あ、ああ、そうかい?すまない…。
ちょっと考えごとに耽っていたものでね。」
ノリスケ「そうなんですかぁ。マスオさん、今お帰りですか?」
そんなことは見ればわかるだろう。
人はいい奴なのだが時々こういう所が気になる。
だからといって、そんなしょうもないことをいちいち指摘してみせるよりは適当に話を合わせておくほうがよっぽど賢い。
それが社会人というものだ。
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:24:24.42 ID:MWLtXdDy0
マスオ「うん。最近は残業も少なくて助かるよー。ノリスケ君も、これから帰るんだろう?」
ノリスケ「えぇ。それにしても、3月もそろそろ終わるってのにまだまだ肌寒いですねー。どうです?マスオさん。
こんな日は一杯キューッとやってあったまりましょうよー。」
彼の悪い癖だ。それほど多くない小遣いをすぐにこうやって飲んでしまう。自分から誘っておきながら、結局相手に奢らせてしまう、なんてことも1度や2度じゃない。僕やお義父さんも何度か被害に遭った。
マスオ「おっ。いいねぇー。……でも悪いけど今日は遠慮するよー。」
ノリスケ「えぇっ!?そんなー。つれないなぁー。
マスオさん、さっき考えごとに耽ってた、って言ってたじゃないですかぁ。悩み事ですか?良かったら僕が相談に乗りましょうかー?」
ほら来た。
相談に乗る代わりに奢ってくれ、と言い出すんだろう。
冗談じゃない。こっちだって、給料日前で懐が淋しいんだ。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:25:32.53 ID:MWLtXdDy0
マスオ「いやぁー、悩みだなんて、そんな大したもんじゃないよー。
最近帰りが遅いってサザエが怒り気味なんだ…。
だから悪いけどまた次の機会に…。」
ノリスケ「そうですかぁ…。それは残念ですね。
……まぁ、僕もたまには早く帰ってタイコやイクラ相手に家族サービスにでも励むとしますかぁー。
それじゃあどうも、おやすみなさい!」
マスオ「うん。おやすみー。」
ふぅ…。最近、どうも気疲れすることが多くなった気がする……。
……最近?
……いや、最近というにはあまりにも長すぎる。これは僕が、フグ田マスオが、磯野家の婿としてやって来た時から……。
その時、またしても僕の肩を叩く者がいた。
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:26:25.42 ID:MWLtXdDy0
マスオ「もぉー、ノリスケ君。一体何だい?
何かさっき言い忘れたことでも……。」
しかし振り向いた僕の目が捉えたのは彼ではなかった。
小太りの、スーツを着た見知らぬ男が、薄暗くなりつつあるその路地で異様に明るい目と歯を光らせながら立ち尽くしていた。
失礼な話だが、口の端が耳まで届くのではないかと思うほど口角を上げた彼の笑顔は余りにも不気味だった。
いや、むしろ未だにそれ以上の表現が見当たらない。
ともかく、その「不気味」な笑顔を間近で見せられた僕は
思わず小さな悲鳴のような声を漏らしてしまった。
マスオ「ヒッ…!!」
喪黒「おやおや、申し訳ございません。驚かせてしまったようで…。
どうぞご安心なさってください。私は別にお化けでもなぁんでもありませんから…。」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:28:32.96 ID:MWLtXdDy0
マスオ「え……、あ、いや、す、すいません!!お気を悪くしないでください!!
てっきり、知り合いだと思って振り向いたものですから…。
……それで、あなたは、どなたですか…?ぼ、僕に、何か御用が……!?」
喪黒「ホーーッホッホッホ。いや大変失礼いたしました。
あ、申し遅れましたが、私、セールスマンです。」
そう言うと、彼は一枚の名刺を差し出した。
マスオ「なになに…?…ココロのスキマ、お埋めします…。
モ、グロ、フク、ゾウ……?変わった名前ですねぇ…。」
喪黒「ホーーッホッホッホ。あなた人のこと言えませんよ。
あなたの身の周りの方、みーんな海のものの名前じゃないですか。
違いますか?マスオさん。」
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:29:26.19 ID:MWLtXdDy0
マスオ「えぇっ!?ど、どうしてそれを……!!??」
喪黒「いやタネを明かせば実に簡単なことです。
実はさっきのあなたとノリスケさんとの会話を聞いていたんです。たまたまあなた方の後ろを歩いていたもので…。」
マスオ「な、なんだ…。驚かせないでくださいよ…。
……それで?セールスマンのあなたが一体僕に何の用です?
何か売りつけようったって無駄ですよ。自慢じゃありませんが、僕の今月の小遣いはもうとっくに…。」
喪黒「そんなに警戒なさらなくても……。
いえ別に私あなたに何か売りつけようという気はさらさらありません。ただ先ほどから伺ってると、あなた随分気疲れなさってるようで。
どうです?悩み事がある時はパーッとお酒でも飲んで気分を紛らわせるのが一番ですよ。」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:29:46.09 ID:7olFKm+gO
それでそれで?
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:30:13.98 ID:MWLtXdDy0
マスオ「……!!
し、失礼な!!ぼ、僕は別に、悩みなんて……!!」
喪黒「悩みなんて?何だと言うんですか?」
マスオ「な、悩みなんてありませんよ…。
……それに、さっきも言いましたが、僕にはお酒を飲みに行くような持ち合わせが…!!」
喪黒「ホッホッホ。隠しても無駄です。あなた正直な方だ。
顔に全ぇーん部出てます。何かお悩みがあるのでしょう?
お金のことならご心配は無用です。
私が奢りますので、私の行きつけのバーでゆっくりお話をお聞かせ願えませんでしょうか?」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:30:16.81 ID:BZ0M+SF2O
脳内再生率やべぇwwww
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:31:02.38 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――――――
彼は不思議な魅力のある男だった。
初対面の人間にいきなり飲みに行こうと誘われて、誰がそんな気になるものだろうか。
しかし彼にはそうさせる、何か魔力のようなものがあった。実際僕もあの時、自分の心が読まれてるような不思議な感覚を覚えた。この人なら僕の悩みをわかってくれるんじゃないか…。
何故だかわからないがそんな確信めいた気持が僕をここへ連れてきてくれた。
喪黒「着きましたよ、フグ田さん。」
僕は俯きがちだった顔を上げた。
一目入口を見て、ここは彼同様この世のものとは思えないような不思議な雰囲気を醸し出す店だと感じた。
マスオ「魔の巣…。」
変わった名前ですね、と言おうと思ったがやめた。よく考えたらついさっき同じセリフを口にしたばかりだった。
喪黒「さあ、どうぞこちらへおかけください。
……まずはあなたのお話をお伺いさせて頂いてもよろしいですか?」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:32:14.76 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――――――
洒落た店内には落ち着いたジャズ調の音楽とタバコの煙と嗅ぎ慣れない酒の香りとが渦巻いていた。
明るすぎず、暗すぎずといった照明の落ちる中、無口なマスターの佇むカウンターの前に僕と喪黒さんは並んで座っていた。
喪黒「……ほう、あなたはお婿さんなんですか。それはそれはさぞかし肩身の狭い思いをしていることでしょう。」
マスオ「い、いえ。別にそんなことはありません。
……みんな良い人ばかりで、とても居心地がいいんです。
別に婿だから、という理由で不快な思いをさせられたこともほとんど無くて…。」
喪黒「ホーォホォ。それもまた非常に興味深いお話ですな。
それじゃああなたは、一体その日常のどこに不満があるというのです? 」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:32:57.00 ID:MWLtXdDy0
喪黒「全く不満が無いのならあなたがそれほどまでに思い悩むはずはありませんものねぇ。あなたご自分で気付いてらっしゃるかどうかわかりませんが、なんだかとてもご無理をしているように見えます。
私に隠し事はききませんよ?何でも包み隠さず話してください。
さぁ、さぁ、さぁ!!!!!!!!!」
彼はそう言って顔を近づけてきた。
不思議なものだ。つい数十分前に気味が悪いと思ったはずのその顔が、今では恵比寿のように見える。
この人に全てを託してみよう。
自分のありのままをさらけ出してみよう。
気付くと僕は、訥々とそれについて語り始めていた。
自分と、磯野家の関係について―――。
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:34:05.75 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――
大した話じゃあない。
ただ、普段胸にしまっている思いを色々と吐きだしただけだ。
もともとは妻と息子との3人で暮らしていたが自分の浅はかな行動が原因で借家を追い出されてしまったこと、
義父も義母も同居を受け入れてくれたが、そういった負い目もあり普段なかなか自分の意見と言うものを口にできないでいること、
ただ愛想笑いと適当な相槌を打つばかりの毎日で気疲れが絶えないでいること、
ここ何年かは盆でも正月でもほとんど実家に帰らせてもらっていないということ、
たまの休みでも「家族サービス」を求められ言いようにこき使われていること、
義弟には事あるごとに小遣いをせびられ夏休みにはほぼ毎年やり残した宿題を手伝わされていること、
……そして最近一番気になっていること―――、
何やら彼らが僕の陰口をたたいているらしいこと―――。
話し出せばきりが無かった。仕事場での大きな悩みから日常の些細な悩みまで、次から次へと溢れ出していった。
彼はそんなしょうもない愚痴を、黙って聞いてくれた。
誰かに話を聞いてもらうというのは久しぶりのことだった。
ひとしきり話し終えたところで彼が言った。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:34:56.61 ID:MWLtXdDy0
喪黒「そうですか。やはり係長や婿養子という立場ではいろいろと人には言いにくい悩みもあるのですね。
それはそれはさぞかし辛かったことでしょう。
興味本位でお伺いしてしまってなんだか申し訳ございません。」
マスオ「いえ…、いいんですよ。
正直、僕もこんな話を相談する相手が周りにいなくて。こうやって話を聞いていただけて、なんだかスッキリしたくらいですよ。ハハハ…。」
喪黒「ホーッホッホ。
あなたはいつもそうやって笑ってごまかしてきたのですね。」
33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:35:48.89 ID:MWLtXdDy0
マスオ「…え?」
喪黒「あなた顔は笑ってらっしゃるけど、実際は大変気の毒な方だ。
私に話を聞いてもらって気持ちがスッとした?そんなはずはありません。本当はスッキリしたどころかむしろ話す前よりも怒りや鬱憤がさらに強くなったんじゃありませんか?」
マスオ「な…!?…し、失敬な!!!!あなたに何がわかるって言うんです!!??」
喪黒「声を荒げても無駄です。私にはあなたのココロがわかるのです。
いつもスキマだらけのあなたのそのココロ。
セールスマンとしてそれを黙って見過ごすわけにはいきません。
騙されたと思って、ここはひとつ私に全てを委ねてみませんか?
私があなたに代わって問題を解決して差し上げましょう。
決して悪いようにはいたしません。きっとココロから満足していただけることと思います。」
37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:37:32.47 ID:MWLtXdDy0
マスオ「…ふ、不愉快だ!!!!さっき知り合ったばかりの人間に、ここまで言われてたまるものか!!!
確かに多少不満はあるが、これでも僕にとってあの人たちは大切な家族だ!!!!あなたなんかに口を挟まれるいわれは…!!!!」
喪黒「…そうですか。ご機嫌を損ねてしまったようで、誠に相すみませんでした。
…ですが、もしも私の力を借りたくなった時はまたいつでもご連絡ください。
わたしはこの時間はいつもここにいますので、こちらにいらっしゃってくださればいつでも力になって差し上げます。
それに先ほどの名刺の裏にも連絡先が書いてありますので…。」
マスオ「ふ、ふざけないでくれたまえ!!!!これ以上君に世話になるつもりはない!!!!
君の余計な詮索やおせっかいはもうコリゴリだ!!!!
奢ってもらっておいてなんだが、僕はここで席を外させてもらう!!!!
失礼する!!!!」
そう言って僕は席をたった。
気のせいかもしれないが、店の外に三歩ほど踏み出し、半ば荒げに扉を閉める時に聞こえたあの笑い声が自分の周りに纏わりついて来るような気がして、
気付くと僕は駆け足で駅へと向かっていた。
38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:38:23.73 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――――――
穴子「やぁー、どうした?フグ田君。なんだか顔色が優れないみたいだが…。」
マスオ「…あぁ、穴子君…。なんだか最近寝不足気味でね…。」
穴子「ほぅ。何かあったのかい?仕事でへまをやらかして部長に怒られたとか、サザエさんと喧嘩したとか…。」
マスオ「いやいや、全然そんなことはないんだけどね…。なんだか、あんまり眠れないんだよ。ハハ。
ただ、それ以外は問題ないよ。体調だって、眠いことを除けばこれこの通り。頗る元気さ。」
穴子「そうかそうか、それを聞いて安心したよ。
ところで、どうだい?今夜あたりちょっと一杯…。」
マスオ「あぁ…。ご、ごめん。色々としごとがたまってて、今日は残業しなくちゃいけなくてね…。
また暇ができたら僕の方から誘うからさ。」
穴子「おーいおいそりゃないだろうフグ田くーん。
まぁ残業なら仕方ないか。じゃあその時は是非、奢ってくれよー。ハッハッハ。」
マスオ「ハハハ…。」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:38:33.78 ID:YScffGuo0
世界観的にあまり違和感無いな。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:38:54.24 ID:KIRQwakzO
これはおもしろい
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:39:48.73 ID:MWLtXdDy0
何気ない話をしている中でもチラチラとあの日のことが思い返される。
最近はずっとあの男の顔と、彼に言われたこととが頭の中を駆け巡ってくる。
あの時はついカッとなってあんな態度をとってしまったが…。
もしかしたら心の底では彼の助けを必要としているのかもしれない。
―――いやいや。僕は何を考えているんだ。こんなくだらないこと考えている暇があったら仕事だ仕事。
結局その日は終電に間に合うギリギリの時間まで仕事をこなし、家路についた。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:40:43.74 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――――――
遅い夕食を済ませ、一番最後の風呂に入った。
すっかり温くなった湯に浸かりながら、それでも幸せをかみしめていた。
―――そうだ。幸せじゃないか。愛する妻がいて、愛する子供がいて、血の繋がってないはずの僕を温かく迎えてくれる家族がいる。
それで充分じゃないか。不満や悩みがあると言ったって、本当に小さなものだ。
きっと、疲れやストレスがたまっているだけなんだ。今日もゆっくり休んで、明日からまた愛する家族のためにバリバリ働いてやろうじゃないか。
鞭を打つようにそう自分に言い聞かせ、風呂を上がった。
マスオ「サザエー。今上がったよー。」
…?
マスオ「サザエー?」
45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:41:55.42 ID:MWLtXdDy0
おかしい。
いつもなら返事の一つでもしてくれるはずだが…、
聞こえなかったのか?
タオルで体を拭き、服を着てそっと台所へ向かった。
…なにかおかしい。
居間がいやに静かだ。
全くの静寂と言うわけではなく、少し大きめのテレビの音も聞こえるし、みんなが話している声も聞こえる。
ただ、その声はだいぶん潜められていた。
彼らに気づかれないようにゆっくりと台所へ向かう。
会話が聞こえるか聞こえないかくらいの位置まで来て、身をひそめる様にかがみその声に耳を傾けた。
46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:42:00.87 ID:KIRQwakzO
穴子w
48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:42:56.61 ID:MWLtXdDy0
フネ「…サザエ、うまくいってるの?」
サザエ「もーう全然ダメよ。
買いたいものが見つかっても、マスオさんのお給料を考えたらなかなか手が出せないわ。」
波平「まぁそう愚痴るな。金のことは仕方ないじゃないか。」
サザエ「お金だけじゃないわよ…。最近仕事から帰っても」
フネ「…しっ!!声が大きいわよ!!
……こんな話、マスオさんに聞かれでもしたら…。」
……明らかに、「僕に聞かれてはまずい話」をしている。
まさか僕が既に気づいているとは思ってもいないのだろう。まぁ話の内容は察しがつく。
きっと甲斐性が無いだの、婿養子の分際で生意気だのと、僕の陰口をたたいているのだ。
杞憂ではなかった。
騒がしいアクション映画の音に邪魔をされながら、彼らの話を聴き逃すまいとしている自分が情けなかった。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:43:43.93 ID:MWLtXdDy0
先ほどの僕の呼びかけが聞こえなかったのは、きっとこのテレビの音のせいだろう。
恐らく、自分たちの会話を聞かれまいとしてのものだったのだろうが、彼らにとってはそれが裏目に出たようだ。
サザエ「だーいじょうぶよ母さん。あの人ああ見えてけっこう鈍いとこあるから…。あたし達が何考えてるかなんて全然気付いてないんじゃない?」
波平「左様。」
カツオ「……でさ、結局どうやってマスオ兄さんを追い出すのさ?」
フネ「これっ、カツオ!滅多な事を言うんじゃありませんよ。追い出すなんて、そんな…。」
サザエ「そうよー。ちょっとの間いなくなってもらうだけじゃない。人聞きの悪いこと言わないでよー。」
カツオ「あっごめんごめん。でも皆、マスオ兄さんにはどっかに行ってもらってたほうが都合がいいわけでしょ?」
波平「左様。まぁー、決行の日はまだまだ先だし、口実はじっくり考えればよかろう。」
52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/31(土) 23:44:57.49 ID:vZ8zuYFy0
サザエとマスオがセックルしているところが浮かばない
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:44:57.48 ID:MWLtXdDy0
ワカメ「それよりもお姉ちゃん、タラちゃんはどうするつもりなの?マスオ兄さんについていきたいって言ったら色々と都合が悪いんじゃない?」
サザエ「そうねぇー。タラちゃんはどうする?」
タラオ「僕もみんなと一緒に家に残りたいですー。色々と準備が大変みたいですし・・・。」
サザエ「じゃあ、決まりね。じゃあ当日、マスオさんには私の方から呼び出して話をするわ……。」
マスオ「もうたくさんだ!!!!!!!!」
気付くと、発作的に飛び出し、こう叫んでいた。
目の前の僕の姿を見て彼らはどんな顔をしていただろう。
両の拳を固く握り、肩をいからせながら俯きがちに震える僕は、どんなふうに映っただろう。
怒れる獅子のように見えただろうか。
脅える小動物のように見えただろうか。
彼らの方は、そんなことよりも、僕に話を聞かれていたということに動転し青ざめていたかもしれない。
ただ、僕にはどうでもよかった。自分の中のあらゆる感情が爆発した。
54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:45:12.13 ID:vZHWLMXW0
カツオww
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:45:33.88 ID:KIRQwakzO
左様w
56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:46:22.19 ID:MWLtXdDy0
マスオ「気付かれていないとでも思っていたんですか!!??
皆で寄って集まって、僕の悪口を言うだけならともかく、追い出す相談まで…!?
ふ ざ け る な!!!!!!!!!!!
確かに僕は、稼ぎも少ない!!
この年になって自分の家を買う目処もついてない!!
あなたたちに何をしてやることもできない!!!!
あなた達が、甘えるように婿養子として転がり込んでそのまま居ついてしまった僕に対してそうやっていろんな不満を持つのは仕方ない……!
それは僕だって分かってる…!!
ただ、僕に何か言いたいことがあるんなら…、
そうやって隠れてこそこそ噂話をするくらいなら、はっきり言ってくれればいいじゃないですか!!!!!!!」
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:46:26.67 ID:o1SJkagqO
これはひどい扱い
59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:47:14.82 ID:MWLtXdDy0
サザエ「あ、あなた、違うのよ!これは…!!」
波平「そ、そうだ、マスオ君。ワシらはただ…!!」
マスオ「ただ!?ただ何です!!??
ただ、出て行って貰いたがってる!!??
ああ、いいでしょう!!!出ていきますよ、こんな家!!!
この家は僕の居場所なんかじゃない!!!!!
僕の居場所は、僕のいるべきところは……!!!!!!!」
言いながら、涙が止まらなかった。その後の彼らの言葉は全く耳に入らなかった。
遅すぎた。
全てが、遅すぎた。
僕は、ただ子供のように泣き喚きながら逃げるように家を飛び出した。
靴もはかず、財布も何も持たず。
外に出た後も後を追う家族の叫び声が聞こえたが、振り返らずにひたすら走り続けた。
一つだけはっきりしていたこと。
僕の居場所はあの家じゃない。
僕の行くべきところは、もうあそこしかない。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:48:13.53 ID:MWLtXdDy0
寝間着姿で泣きながら走り去る裸足の男。
どう考えても変質者だ。巡回中の警官でもいれば職質されていただろう。
何人かすれ違う人の視線が痛かったのを覚えている。
それでも、僕はあの店まで走り続けた。
白い息を弾ませながら、すっかり湯冷めした体で少しばかり重いドアを開けた。
喪黒「ホーッホッホ。やーっぱり来ましたね。ずっとお待ちしてましたよ。
この時期の夜風はさぞかし冷たかったことでしょう。さあ、どうぞこちらへ――――。」
思いつめた顔で立ち尽くす僕を、彼は満面の笑みと温かなホットバタードラムとで出迎えてくれた。
63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:49:26.77 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――――――
フネ「本当に…、どこへ行ったのかしらねぇ…?」
サザエ「ああ…!!心配だわ…!!」
カツオ「姉さんゴメン…。僕のせいでマスオ兄さん、勘違いしちゃったみたいで…。」
波平「いや、カツオのせいだけではあるまい。
確かに、あの状況で『追い出す』という言葉を耳にすればマスオ君でなくとも勘違いしたかもしれんが、責任はワシらにもある。」
サザエ「そうね…。こそこそ隠れて話なんかしてたらおかしいわよね…。
それにマスオさん、ここのところ仕事場でのストレスがたまってたみたいだったし…。本当にどこへ行っちゃったのかしら…!!」
ワカメ「ごめんね、みんな…。アタシがこっそりマスオ兄さんの誕生日会の計画をしようなんて言いださなければ……グスン。」
フネ「何言ってるのワカメ。さっきもお父さんがおっしゃったとおり、誰のせいってことはないんですよ。
タラちゃんもワカメもいつまでも泣いてないで、子供たちは早いとこ寝ちゃいなさい。」
66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:50:34.12 ID:MWLtXdDy0
タラオ「嫌です〜。パパが帰ってくるまで起きてるですゥー。」
フネ「ほら、わがまま言わないで…。」
サザエ「……いいわ、母さん。私も少し落ち着いてきたし、タラちゃんは私が寝かせつけてくるわ。
ほら、カツオもワカメも学校があるんだから早いとこ寝ちゃいなさい。」
カツオ・ワカメ「はーい。」
フネ「…本当に、どうしたものですかねぇ…。ご近所の方にもご迷惑をおかけしましたし…。早いとこ見つかればいいんですけど…。」
波平「まあ、そう気をもむこともないだろう。ご近所の方には明日適当に言い訳とお詫びをしておいてくれ。
あまり騒ぎたてて事が大きくなるとマスオ君も帰ってきづらいだろう。
マスオ君の方も無断欠勤と言うわけにもいかんだろうから会社に連絡を入れるだろう。
その前に、こちらから上司の方にだけ事情を話してそれとなくマスオ君の連絡先を聞いてもらっておいて、ほとぼりが冷めたところでこちらから連絡すればよかろう。」
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:51:22.05 ID:MWLtXdDy0
フネ「そうですね…。それじゃ、私達もそろそろおやすみしますか?」
波平「うむ、そうするとしよう。
探しに行きたくても、手がかりもない上にさすがにこんな夜中じゃどうしようもあるまい。
なぁに、マスオ君も大人だ。夜が明ければ少しは冷静さを取り戻してくれるさ…。」
結局、それから1時間もしないうちに磯野家は寝静まった。
――これから先に自分たちの身に降りかかる惨劇を予期できる者がいようはずもなかった。
71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:51:27.90 ID:KIRQwakzO
船「あっ…穴子さん…そんなとこナメちゃ…らめ…」
74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:52:47.35 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――
マスオ「はぁー。」
穴子「おやぁ?どうしたんだいフグ田くーん。まぁたため息なんかついちゃって。」
マスオ「え?い、いやぁ…。ちょっとね…。」
喪黒さんにあのことを依頼してから、3日経った。計画は無事進んでいるのだろうか。
彼が言うにはこういうことらしい。
計画を実行するにはいくらかの下準備が必要だ。彼がその準備を行っているその間、僕はいつも通りに会社へ通っている必要がある。
彼は、僕に代わりのスーツとカバンを寄こしてきた。
それを身にまとっていつも通りに通勤し、磯野家に帰る代わりにホテルへ泊まるようにしてほしい、とのことだ。
その代金も全て彼が受け持ってくれるようだが…。
いくらボランティアだとは言ってもここまでしてくれるなんて、やはりかなり奇妙な人間だ。
まあ今は僕の方にも他に頼りにできる人がいない。
アナゴ君や他の同僚に相談したところで、どうせ家に帰って謝るべきだとかなんとか僕を諭してくるだろうし、実家へ帰ってもまぁ似たような反応をされるだけだろう。
今は、喪黒さんに全てを委ねるしかない。
76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:53:43.41 ID:MWLtXdDy0
実際、彼の仕事は完璧だ。
この替えのスーツとカバンも、どこから調達してきたのかはわからないが、今まで僕が使っていたものと何一つ変わらないように見える。
内胸に施された刺繍や、普段はそれほど気にも留めないような小さなシワやクセの一つ一つまで再現されている。
会社の方に磯野家から連絡が来るだろうことも覚悟していたが、
それとなく上司に探ってみてもそういった類の電話は受けていないらしいところを見ると、事前に何かしらの手を打ってくれていたようだ。
今僕にできることはただ、彼を信用して、計画の準備が整うのを待つこと―――。
それだけだ。
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:54:43.37 ID:MWLtXdDy0
穴子「やっぱり何か悩みでもあるんだろう?僕でよかったら話を聞いてやるよ。もちろん、君がおごってくれるならの話だがね。はっはっは。」
マスオ「いやぁ、別にそんな悩みだなんて…。あっ。」
メールが来た。
喪黒さんからだ。
穴子「遠慮するなよー。僕と君との仲じゃないか。今夜あたりいつもの店で…。」
マスオ「ごめん。大事な用ができたみたいだ。今晩は人とBARで飲まなきゃいけないんだ。」
穴子「ふーん…。その、人ってのは誰なんだい?」
マスオ「取引先の上役だよ。君も知ってるだろ?川岡商事の…。」
穴子「ああ、あの人か。じゃあ仕方ないな。まあまた気が向いたら誘ってくれよー。」
マスオ「うん…。」
83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:57:19.68 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――――
『魔の巣』
―――ここは何度来ても、初めて来た時と同じような違和感を感じる。
この中に喪黒さんがいると思うと尚更だ。
…なんだか変に緊張する。胸の鼓動が幾分早い。手にはしっとりと汗が滲んでくる。
落ち付け。何も悪いことをしに来たんじゃない。
ただ、酒を飲みに来ただけだ。2回だけ深呼吸をして、ゆっくりとドアを開けた。
喪黒「ホーッホッホ。お待ちしてましたよフグ田さん。ようやく下準備が整いました。
あとは、今晩の『決行』を待つのみです。
それを以てあなたは完全に、悩みのない幸せな日々を取り戻すことができるのです――――。」
―――手だけじゃなく、全身に汗が滲むのを感じた。
喪黒「さぁさ、こちらへどうぞ。今日は私が何でもおごっちゃいます。
なぁんでもお好きなものを召し上がってください。
何しろ私のほうには、あなたにお話ししたいことが山ほどありますのでね…。
………ホーッホッホッホ。」
84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:58:21.67 ID:MWLtXdDy0
―――――――――――――
まだ寒さが残る真夜中、一人の男が静かに歩きだした。
僅かに街灯に照らし出されたその口元は、見る者を怯ませるような冷たい微笑みに満ちていた。
男は向かった。
ある家族を消し去るために、彼らの家へと。
一歩一歩進むその足取りは、それほど長くない足のせいか、少々重いようにも見えた。
時折漏れる小さな笑い声には異様な雰囲気が備えられている。
彼は悪魔か、それとも天使か―――?
―――数分後、目的の家に辿り着いた。
彼はいたって冷静に玄関の引き戸を2、3回たたく。
返事がない。
それはそうだ。何しろこんな夜中だ。かといって執拗に何度もたたくわけにはいかない。
しばらく待った後、男はもう一度戸を軽くたたいた。
「…どちら様ですか?」
そう問いかける声は、いくらか年をとった女のものだった。
つい今しがたまで気付かなかったが、引き戸越しにうっすらと見えるその影の様子から察するに、一度目のノックで彼女はすでに起きていたと見える。
当然と言えば当然だが、こちらが何者なのかを伺っていたのだろう。
87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/31(土) 23:59:34.95 ID:MWLtXdDy0
「…夜分遅くに失礼いたします。私、セールスマンをやっている者でして…。
おたくに、フグ田マスオさんという方がいらっしゃいますね?彼のことで少しお話したいことがあるのですが…。」
その名前に、影は確かに反応した。
「…マスオさんについて何かご存じなのですか?あなたはマスオさんの知り合いか何かで…?」
予想通りの反応だ。男は口元の笑みを崩さず、低く落ち着いたその声でこう続けた。
※※日付変更によりID変更 MWLtXdDy0→Q+JJ72kN0※※
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:00:50.22 ID:Q+JJ72kN0
「ええ。こんな夜中に大変申し訳ないのですが、こちらにもいろいろと事情がありまして…。
実は、今まで彼をかくまっていたのはほかでもないこの私なのです。
おっしゃる通り、彼とはちょっとした知り合いでして…。
数日前に突然私のもとを訪ねて来た時、彼は軽い心神耗弱状態にありました。
話を聞き出すのにも数日かかり、それを私なりに冷静に判断し、大体の事情を得るに至りました。
事の経緯を察するに、彼があそこまで追い詰められるに至った原因はあなた方にあるようです。
ただ、あなた方にはあなた方なりの言い分があることでしょう。
もしよろしければそれをお伺いさせていただきませんか?
あなたのお話の内容によっては、私のほうとしても、彼の説得に際して何らかの形でお力添えをさせていただくつもりですが…。」
「…!彼は無事なんですね…?」
「ええ。彼は今…。」
「ちょっとお待ちください。…立ち話というのもなんですので、どうぞお上がりになって、詳しい話をお聞かせ願えませんか?」
男の口角がいやらしいほどに上がった。
「…ええ。是非に。」
そして、彼女は鍵を開け、ゆっくりと戸を引いた――――。
その瞬間男は、老婆のその体に、あくまでも冷静にナイフを突き立てた。
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:01:55.32 ID:MWLtXdDy0
フネ「………!!!」
刺すと同時に、叫び声が漏れないようにその口を手で押さえた。
老婆の体がガクガクとふるえ、顔色は見る見るうちに変わっていった。
何かを強く訴えかけようとしていたその目も次第に閉じていき、遂に彼女は意識を失った。
お気に入りのスーツに返り血が飛び散らないよう十分に注意しながらナイフを抜きとり、重く枝垂れるような老婆の体を手から離し、男はいったん玄関脇に身を潜めた。
「…何の音?」
家の奥から若い女の声がした。ふすまを開ける音が聞こえた後、その声の主のものと思われる足音がこちら側に近づいてきた。
「……!!!母さん!?母さん!?何があったの!!??かあさ…!!!」
翻すようにその身を現した男は、意識のない老婆の体を抱きかかえようとする女の頭の上に、容赦ない一撃を加えた。
93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:02:21.13 ID:EXr5EYlfO
きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:02:44.58 ID:MWLtXdDy0
…なんて脆い奴らだ。
大声で笑いそうになるのをこらえて、彼はそのまま家へと上がって行った。
中に残っているのは子供と老人だけだ。なんと簡単な仕事だろう。
結局その後、男が一家を一人残さず始末してバーに戻るまでには、ほんの1時間程度しか要しなかった。
―――言い忘れたことがある。
その日は、とても月の綺麗な夜だった。
95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:03:00.92 ID:4RisiEeRO
ヤバい。手が震えてきた。
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:03:06.78 ID:K3LpX54TO
気になって勉強が手につきません
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:03:33.48 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――――――――
フグ田マスオはその朝、どうしようもないほどの体の熱を感じながら飛び起きた。
マスオ「ハァ、ハァ……!!!!
…夢…?」
サザエ「あなた、どうなさったの?随分とうなされていたみたいだけど…。」
傍らにいた妻が心配そうに見つめている。先ほどから何度か声をかけてくれていたらしかった。
マスオ「……い、いや、なんでもない…。ちょっとおかしな夢を見てしまってね…。き、きっと疲れがたまってるんだろう。ハハハ…。」
サザエ「…そうね。あなたここのところ忙しかったものね。早く疲れを取るためにも、今日一日はゆっくりお休みになって。」
マスオ「悪いがそうさせてもらうよ。ありがとう。」
サザエ「あ、そうそう。あなたに精を付けていただこうと思って、今日のお昼ご飯はうな重をとることにしたのよ。
だからそれまでには起きてきてね。」
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:04:29.27 ID:Q+JJ72kN0
そう言って妻は部屋を出て行った。
ふすまを閉める音と、台所へと向かうパタパタという足音とがこの静けさの中で妙に響いた。
一体、あの夜
喪黒さんは何をしたって言うんだ?
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:05:25.99 ID:MWLtXdDy0
――――――――――――
あの夜僕は、何もかもを忘れてしまいたい衝動にかられて浴びるように酒を飲んだ。
いつの間にか酔いつぶれてしまっていたようで、気づいた時には魔の巣の目の前の通りで、白み始めた空を見上げながら大の字に横たわっていた。
そんな経験は今までの人生の中でもほとんどしたことが無かった。
ただ、そこに喪黒さんの姿はなかった。
僕を置いて先に帰ってしまったのか、或は―――、
僕の依頼を、『決行』していたのか――――。
酔いの残るまま重い足取りで会社に向かい、いつも通りの残業も終えてホテルに戻ろうとしたとき、彼に出会った。
喪黒「これはこれはフグ田さん。こんな所で会うなんて奇遇ですね。」
彼はそう言って、会釈をする代わりに右手で帽子を軽く持ち上げた。
奇遇だって?奇遇であるものか…。
103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:05:28.34 ID:E8KxETLkO
夢か…よかった〜
106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:06:19.87 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「喪、喪黒さん…。」
喪黒「ホーッホッホ。どうしたんですかそんな怖い顔をして。
昨夜は相当に飲んでいらっしゃったようですが、どうですか?おからだの調子は。」
マスオ「え、ええ…。昼過ぎまではまだ少し具合が悪かったんですが…、もうだいぶ良くなりましたよ。」
まったくもってつかみどころのない男だ。こうして目の前で話していても、彼が何を考えているのかさっぱりわからない。
…そうだ。そんなことよりあれを聞かなければ。
計画はどうなったのか―――。
喪黒「うまくいきましたよ。」
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:07:19.71 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「なっ……!!??」
喪黒「おや、これは失礼いたしました。その驚きようから察するに、あなた今ちょうど計画のことを考えてらしたようですね。
ご安心ください。ことは全て首尾よく片付きました。何ら抜かりはありません。」
マスオ「え…。じゃ、じゃあ、もしかして…。」
喪黒「ええ。ホテルと会社を往復する生活は今日でおしまいです。
どうぞ磯野家にお戻りください。
そこに、あなたの待ち望んでいた『幸せな磯野家の暮らし』があるはずです。
ホーッホッホ。」
108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:08:18.95 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――――――――
そして僕は今の生活を手に入れた。
妻も義父母も義弟妹も息子も、皆が優しくしてくれる。
僕をこの上なく慕い、気遣い、満たしてくれる。
ここは紛うことなく、僕が長らく理想としていた磯野家のはずだ。
――――しかし、どう考えてもおかしい。
僕が大騒ぎして家を飛び出したあの夜のことも、
その後何日も家に帰らずにいたことも、
一切の連絡を絶っていたことも、彼らは何一つ聞いてこなかった。
いい歳をして家出をし姿を眩ませた僕を責めるでもなく、何事もなかったかのように迎え入れてくれた。
112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:09:16.33 ID:Q+JJ72kN0
正直、わけがわからなかった。
初めは僕に気を遣ってその話題に触れないようにしてくれているのだろうと思っていたが、違った。
一度、思い切って僕の方から家出のことについて切り出してみもしたのだが、彼らは揃って顔の上に疑問符を浮かべた。
示し合わせたとかでもない。
本当に、全員の頭の中からあの夜に関する記憶の一切が抜き取られていたみたいだった。
もしかしたら自分は、昔読んだSF小説に出てきた"パラレルワールド"みたいな、どこか違う次元にある世界に迷い込んでしまったのではないか、とさえ思った。
一体、どういうことなんだ…?
「ちわーっ。うな重7つ、お届けに参りましたー。」
114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:10:20.23 ID:Q+JJ72kN0
引き戸を開ける音と共に聞こえた若い声が、僕の思弁を断ち切った。
続けて、笑いながら文句を言う声が聞こえた。
サザエ「遅いじゃなーい。待ちくたびれたわよー。」
聞き慣れたはずの声は、もはや僕の知らない人間の声だった。
襖を開け、出前持ちの男に金を払う女をぼんやりと眺めた。
あれは果たして、本当に妻なのだろうか…?
その僕の姿に気付いた彼女が、受け取ったばかりのうな重を玄関に残してこちらに近づいてきた。
サザエ「あなた、本当にどうしたの?ぼーっとしちゃって。
…さっきのうなされかたといい、やっぱり変よ?熱でもあるんじゃ…。」
目をそらす代わりに俯いた僕を気遣うそぶりを見せる。
額に当てられた手が異様に冷たい。
彼女が僕の目を覗き込むように見てきた。
そのまま、僕が目をそらすまでの間、ただただじっと見続けていた。
・・・ ・・・・・・・・・・・・
――――彼女は、全く瞬きをしていなかった。
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:11:28.99 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――
タラオ「うな重、おいしいですぅー。」
ワカメ「ほーんと、鰻なんて久しぶりねぇー。」
カツオ「姉さん、何かいいことでもあったの?」
サザエ「別に何もないわよー。たまにはあたし達だって楽したいじゃない。ねぇ、母さん?」
フネ「そうだねぇ。時々はこうやって店屋物をとるのも、悪くないわねぇ。」
波平「左様。」
カツオ「ふーん。まぁいっか!おかげでこうして美味しいものが食べられるんだから。
あ、そうだ!これから休みの日のお昼ご飯は出前、ってことにしたらいいんじゃない?
その方が母さんも姉さんも助かるでしょ?」
サザエ「調子に乗らないの!」
波平「左様。」
一同「ハハハ……。」
サザエ「あら、どうしたのあなた?全然箸が進んでないじゃない?」
マスオ「ん?いやぁ…。あまりに美味しいもんで、ゆっくり味わってたんだよ。ハハ…。」
カツオ「マスオ兄さん、食欲ないの?だったら、僕が代りに食べてあげよっか?」
ワカメ「もーぅ、お兄ちゃんったらー。」
119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:12:32.75 ID:Q+JJ72kN0
笑い声の絶えない食卓。
一家団欒の平和な休日。
優しい妻と、家族たち。
全部、僕が思い描いていたままじゃないか。
それがやっと手に入った。
なのにこの気持はなんだ?
屈託のない彼らの笑顔を見ているうちに、それがどんどん歪んでいって皆同じ顔になった。
ふっくらとした輪郭。
半月型の目。
特徴的な形の鼻。
耳まで届きそうな口。
僕をこの仮初の『幸せ』に導いてくれた人物。
喪黒福造。
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:13:57.81 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――
その夜、僕は人通りの少ない公園に出かけた。
彼、喪黒福造に会うためだ。
『夜、心細く彷徨う人を正しい道から踏み出させ、
沼地やぬかるみに迷わせて、遂には沼や池へと誘い込む』
ちょうどこんな真夜中に道を歩いていたからだろうか、なぜか学生時代読んだミルトンの詩が頭を過った。
公園の入口まで来た時、既にブランコに腰掛けて僕を待ってくれていたであろう人影が目に入った。
喪黒「ホーッホッホ。どうしたんですかフグ田さん。急に『会って話がしたい』だなんて…。しかも、こんな夜遅くに。
あんまり遅い時間に出かけると、ご家族の皆さんも心配なさるでしょう?」
マスオ「いえ…。その…、お聞きしたいことが…。 それに、家族はその…、みんな寝ちゃいましたから…。」
喪黒「そうですかそうですか。
それで、どうしました?何か気になることでもあるのですか?」
全てをはっきりさせなければいけない。
そのために今日僕はここへ来たのだ。
マスオ「……喪黒さん。
あなたは……、あなたは一体何をしたんです……!?
彼らを……、磯野家の人たちをどこへやったんです…!!??」
123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:14:59.73 ID:Q+JJ72kN0
喪黒「……。」
マスオ「……確かに、今の彼らは、僕の思い望んでいた幸せを与えてくれようとする。
あなたに打ち明けた僕の不満は、形の上では全て解消されたかもしれない…!!
………だが!!!
僕は、あんなものを望んでいたわけじゃない………!!!!
あんなものは偽物だ!!!!!
偽物……!!そう…、彼らは偽物だ……!!!
本 物 の 磯 野 家 の 人 た ち は、どこに行ったんだ!!!!????」
喪黒「……何をおっしゃってるんでしょうか…?」
マスオ「とぼけないでください!!!
あれは全て、人 形 だ!!!
ここに来る前に確かめてきたんだ……!!!
悪いとは思ったが、寝室で寝ている妻と子にスタンガンを当てた…!!
途端に彼らはショートして、体から火花と黒い煙をあげたよ…!! 他の奴らにも同じことをした…!!
彼らは、人間じゃなかった……!!!!」
124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:16:00.51 ID:Q+JJ72kN0
喪黒さんは、おもむろにブランコから立ち上がり、僕の方へ2、3歩歩み寄ってきた。
暗闇で見る彼の姿に、先程のミルトンの詩のウォーター・シェリーが重なって見えた。
喪黒「……おっしゃる通り、あれは私が用意したアンドロイドです。
しかし、それのどこがいけないのでしょうか?
彼らはあなたを愛してくれたでしょう?
温かい温もりも、優しい笑顔も、溢れる愛情も、幸せな家庭も。
あなたが欲しがっていたものを、すべて与えてくれたはずでしょう?
あなたがココロから望んでいた願いを、ひとつ残らず満たしてくれたでしょう?」
127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:17:08.05 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「…馬鹿な!!! 僕はあんなもの、望んじゃいない!!!
僕はあなたに、そんなことは頼んでいない!!!
確かに、彼らに不満が無いわけじゃなかった…!! 僕は磯野家の人たちに嫌われていると思っていた…!!
しかし、それでも僕は磯野家の人たちを愛していたんだ!!!!!!!!
あんな出来そこないのマネキン人形が僕を愛していただって!?
ふざけるな!!!!僕はおままごとがしたいわけじゃない!!!!!!
……さあ!!!!!!!!!!!!
磯野家の人たちを返してもらおうか!!!!!!!!!!!!!」
喪黒「ですから、なにをおっしゃってるんですか。
私は磯野家の皆さんそっくりのアンドロイドをご用意しただけですよ。」
マスオ「……え……?」
喪黒「ホーッホッホ。もしかしてあなた覚えていらっしゃらないんですか?
自 分 が 彼 ら を 殺 し た こ と を。」
128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 00:17:13.43 ID:G1JJTDcRO
スタンガンてww
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:18:32.60 ID:Q+JJ72kN0
―――その瞬間、あの夜の記憶が全て蘇った。
僕は、魔の巣で酔いつぶれてしまったわけじゃなかった。
浴びるように飲んだ酒。
磯野家へ向かう道中。
声色を変えて話した玄関先。
彼らを刺した感触。
苦痛に歪む顔。
その全てがフラッシュバックのように蘇った。
あれは、夢なんかじゃなかった。
マスオ「うあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
喪黒「思い出したようですね。あなたが息を巻いて彼らを殺しに行く、と言って店を飛び出した時は私も驚きましたよ。
お酒を飲んで気が強くなっていたんでしょうが、まさか本当にするとは思いませんでしたよ。
私の当初の予定では、あのアンドロイドと一緒にどこか違う場所で生活していただくだけのつもりでした。
家族と言えば聞こえはいいでしょうが、所詮は他人です。
それよりは、あなたのために尽くしてくれるロボットと一緒に生活する方がよっぽど幸せだろうと思ったのです。
それが、あなたのその行動のせいで予定を変えざるを得なくなったのです。
突然磯野家の人々が居なくなってしまえば大事件です。
そこで彼らの死体を隠して、アンドロイドに彼らの代わりを演じてもらっていたんですよ。
しかし今やそのアンドロイド達も、あなたの手によって破壊された…。
どうするおつもりです?今度こそ、磯野家の人々は完全にこの世の中から抹殺されてしまいました…。」
133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:19:34.23 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「あああああああ………!!!!」
痛い。
頭が割れるようだ。
死にゆく彼らの顔が、姿が、次々と僕の頭を駆け巡る。
激しい痛みに苦しみながら逝った彼らが今、僕をこうして苦しめている。
喪黒「……困りましたね。
仕方ありません。壊れたアンドロイドは私が回収することにします。
しかし、あとのことはフグ田さん、ご自身でなんとかなさってください。」
マスオ「……そんな……!?
い、嫌だ…!!!喪黒さん、なんとかしてください!!!
あなたなら、何とかできるでしょう!!??僕を助けてください!!!!!」
喪黒「今さら取り返しがつくわけないでしょう。死体を隠したりアンドロイドを作ったりするぐらいならできますが、
いくら私と言えど死んだ人を生き返らせるなんてとてもできません。」
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:20:43.72 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「……くっ!!
嫌だ!!!なんとかしろよ!!!!
……そうだ……!!!
元はと言えば、アンタが悪いんだ!!!
大体、ロボットなんかじゃなくて、直接奴らを催眠術か何かで僕の都合のいいように洗脳してしまえば良かったじゃないか!!!!!
何でそうしなかったんだ!!??え!!??
そ、それに、僕が奴らを殺しに行くのを止めることだってできたはずだろう!!!!」
喪黒「なーにを馬鹿げたことをおっしゃってるんですか。
彼らには彼らなりの生活があったんです。あなた一人のためにあの人達の人生を無駄に費やさせるわけにはいきません。
それに、彼らを殺したのは紛れもなくあなた自身なのです。
その責任を私になすりつけるなんてとーんでもありません。」
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:21:36.76 ID:Q+JJ72kN0
マスオ「うるさいうるさいうるさい!!!!!!
僕は捕まりたくない!!!人殺しで一生織の中なんて、絶対に嫌だ!!!!
あいつらを生き返らせられないんなら、せめて僕が捕まらないように何とかしてくれ!!!!!!!!」
喪黒「やれやれ…。困った人ですね。
……わかりました。『あなたが捕まらなければ』それでいいんですね?」
マスオ「そ、そうだ!!!あんな奴ら生き返らなくたって、知ったこっちゃない!!!!僕さえ助かれば……!!!」
喪黒「それじゃ、何とかやってみましょう。
その代り、どうなっても知りませんよ?」
マスオ「なんでもいいから、早く!!!!!!!!!
早くしてくれ!!!!!!!!!!!!」
喪黒「ホーッホッホッホ。
では……、
ドーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:22:29.77 ID:Q+JJ72kN0
――――――――――――――
三郎「ちわーっ。三河屋でーっす!
浜さーん!お酒とお醤油、お届けにあがりましたーっ!!」
浜「はーい。お酒とお醤油一升ずつ…。はい、確かに。
サブちゃん、いつもいつもありがとねぇ。」
三郎「いえいえ。それじゃ、どうも失礼しまーす!!」
三郎「ふーっ…。あとは、磯野さん家だけか…。」
三郎「ちわーっ。三河屋でー……うっ!!??
な、なんだ、この臭いは……!!??」
146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:23:30.09 ID:Q+JJ72kN0
三郎「サザエさーん!?フネさーん!?誰もいらっしゃらないんですかー!?
……そ、それにしても、なんだこの酷い臭いは…!?
ちょ、ちょっと上がってみるか…。すいませーん!誰もいませんかーあひゃああああああああああああああっ!!!!!!!!???」
そこで三郎が目にしたのは、居間に転がる腐敗した六体の死体と、そこに立ち尽くす一人の男の姿だった。
三郎「あ、あ、あああ…!!!
マ、マスオ…さん……!?」
三郎「マ、マスオさん…!!??ここここれはどどど、どういうことですか………!!??」
マスオの姿をしたそれは三郎の言葉に返事をする代わりに、こうつぶやき続けた。
『ピーッ、ピーッ、ピーッ…。
データが初期化されています…。
必要な情報を入力してください……。データが初期化されています…。必要な情報を…………。』
149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:24:51.82 ID:Q+JJ72kN0
―――――――――――――――――
人通りのない路地を揚々と歩く男がいた。
真黒なスーツと帽子とが印象的なその男は不意にその足を止め、振り返りこそはしないが、まるで誰かに語りかけるようにこう呟き始めた。
「いやー。今回ばかりは大変でした。
まさかこーんなことになろうとは…。
……言っておきますが、あたしゃ嘘はついてませんよ?
あれはあくまでもマスオさんじゃなくて、マスオさんそっくりのただの
ロ ボ ッ トなんですから…。
……あなたは、ご家族とはちゃーんとうまくいってますか?
もしも悩みや不満があるようでしたら、無理してあんまり溜めこまないようにした方がいいですよ?
我慢し続けたその先には、恐ろしーい結末が待ち構えているかもしれませんからね……。
ホーーーーーホッホッホッホ!!!!」
完
150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:24:54.89 ID:Uo7xfMPfO
ドーーン来たー
153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:10.18 ID:EF1Y4YTHO
>>1おつ
おもしろかった
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:14.53 ID:ywc7OKceO
>>1乙
すごいわ
155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:15.12 ID:Q+JJ72kN0
終わり!!!!!
最後まで読んでくれた人サンクス。
今から過去レス読むから質問ある人は適当に書き込んでて。
後で答えます。
157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:24.53 ID:5fpjGjv6O
>>1乙
158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:25.15 ID:Uo7xfMPfO
乙
うまくまとまってて面白かったです
159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:25.83 ID:s/XplyvGO
>>1乙!!
楽しかったぜ
160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:26.40 ID:sJ7BOYjQO
乙カレーライス
161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:33.51 ID:kYhdqV0iO
乙!
162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:42.16 ID:Y3dFUWUFO
ほ
163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:41.66 ID:fy55f8xQO
>>1おつですー!
おもしろかったでーすー!
164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/11/01(日) 00:26:47.89 ID:hJySDLDSO
>>1乙
おもしろかったわ
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